研究課題/領域番号 |
21K14742
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
松本 咲 甲南大学, 先端生命工学研究所, 特任教員(助教) (50850822)
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研究期間 (年度) |
2021-02-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細胞老化 / RNA構造 / 翻訳 / 分子クラウディング |
研究実績の概要 |
細胞の大きさは細胞機能を維持するために厳密に制御されている。その一方で、がん細胞では小さく、老化細胞では大きくなる。近年、細胞を肥大化させると、細胞内の遺伝子発現が変化し、老化細胞様の形質が発現することが報告された。また、老化による細胞の肥大化により、細胞質の濃度が低下することも示唆されている。細胞が自身の大きさを制御するメカニズムや細胞老化メカニズムの解明は、老化関連疾患治療戦略の確立に必須であるものの、細胞内環境の変化が遺伝子発現に及ぼす影響およびメカニズムについては未だ明らかにされていない。 本研究では、細胞サイズの変化による細胞質の分子環境の変化が遺伝子発現に及ぼす影響を、核酸の構造および熱安定性から定量的に理解することを目指す。そのため、下記の2ステップに分けて研究を行う。(1)In vitroにおける分子クラウディングが翻訳に及ぼす影響を明らかにする。(2)老化細胞における核酸構造による翻訳制御機構を明らかにする。 令和3年度は主に(1)について検討した。分子の混み合いが翻訳に及ぼす影響は、分子クラウディング剤であるポリエチレングリコール(平均分子量200)存在下で翻訳を行うことにより検証した。その結果、添加するPEG200のwt%の上昇に伴い翻訳が抑制された。一方、無細胞翻訳溶液を希釈すると、希釈度に伴い翻訳効率の上昇が観測された。しかしながら、テンプレートmRNAに存在するRNA構造の安定性と翻訳量との相関は観測されず、周辺の分子クラウディングはRNA構造よりも翻訳系タンパク質に大きく影響することが明らかになった。これらの結果を踏まえ、令和4年度は実際の老化細胞内における混み合いとRNA構造および翻訳効率についての検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、上述した(1)の研究について、in vitroでの周辺環境の混み合いが翻訳反応に及ぼす影響について検討した。これらの実験を行うために、様々な熱安定性をもつRNA構造形成配列を設計した。設計した配列をレポーター遺伝子であるルシフェラーゼ遺伝子の上流に導入したプラスミドを作製した。RNA構造は、ヘアピン構造およびグアニン四重らせん(G4)構造を導入した。それぞれのRNA構造はCDスペクトルを測定することにより解析した。またRNA構造の熱安定性はUVメルティング実験により解析し、熱力学パラメータを算出した。作製したプラスミドをテンプレートに転写することにより鋳型となるmRNAを作製し、無細胞翻訳系により翻訳反応を検討した。その結果、分子クラウディング剤であるポリエチレングリコール(平均分子量200)の添加量が増えるに従い、翻訳の抑制が観測された。さらに、老化細胞では細胞質の濃度の低下が観測されていることから、無細胞翻訳系の翻訳溶液を希釈した条件でも翻訳をおこなった。その結果、希釈度が上がるにつれて翻訳量が増えた。しかしながら、これらの翻訳量と用いた鋳型mRNAに存在するRNA構造の安定性との相関は観測されなかった。この結果は、in vitroの翻訳系において、分子クラウディングは核酸構造より翻訳を司るタンパク質により大きな影響を与えていることを示唆している。予想していた結果とは異なったものの、in vitroにおいての検証は順調に進んでおり、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、上述した(2)の研究を遂行する。老化研究でもちいられているWI-38細胞およびIMR-90細胞に、(1)で作製したプラスミドDNAをトランスフェクションした後、ルシフェラーゼの発光量を測定することで遺伝子発現効率を算出する。購入してから間もない細胞を正常細胞とし、継代を続けることにより複製老化した細胞、老化を促進するドキソルビシン添加細胞や、浸透圧などのストレスを加えることにより老化した細胞について、同様に遺伝子発現効率を算出する。これにより、老化の有無および老化の種類による遺伝子発現効率の違いを明らかにする。翻訳効率は、プラスミドをトランスフェクションした細胞からRNAを抽出し、RT-qPCRによりRNA量を定量することにより議論する予定である。細胞老化の度合いは、老化の指標としてよく知られるβガラクトシダーゼ活性を蛍光活性化セルソーティングで測定することにより定量的に評価する。また、生細胞のみを蛍光染色する試薬を用いて、蛍光顕微鏡を用いて3D観察をおこなうこと、もしくはセルカウンティング装置により、細胞の体積分布を算出し、細胞内の混み合いが翻訳に及ぼす影響を議論する。老化に伴う細胞内の化学環境が核酸構造および翻訳におよぼす影響については、正常および老化細胞内の、pH、カリウムイオン濃度、ナトリウムイオン濃度、及び誘電率を測定することにより議論する。細胞実験により得られた結果から老化に伴う細胞内の化学環境の変化が核酸構造に及ぼす影響、さらには変化した核酸構造が翻訳に及ぼす影響について定量的に明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前産後休業及び育児休業に伴い交付を4月から9月に遅らせたため、令和3年度における主に消耗品費の執行が遅れた。またコロナウイルスの影響により、予定していた出張をキャンセルしたため、旅費の執行ができなかった。 交付額が予定より減額されたこと及び、購入予定であったセルカウンターの製品のアップデートに伴い価格が高額になり、購入を断念した。そのためセルカウンター購入にあてた210万円が執行できなかった。令和4年度は細胞での実験を精力的に行う予定であるため、新たな細胞の購入費や細胞培養関連の消耗品費、また検討するRNA構造のバリエーションを増やすため、RNAの委託合成費として次年度使用額を活用する予定である。
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