ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場であるが、その機能不全は細胞老化やがん化を引き起こす原因となっている。皮膚透過可能なミトコンドリア機能制御化合物の合成を達成できれば、新たな形態のがん治療薬候補の重大な知見を得ることができ、その開発に大きく貢献するものとなる。そこで本研究課題では、疾患治療薬・診断薬として今後様々な発展が見込まれるDNA副溝結合化合物ピロールイミダゾールポリアミド(PIP)を基として、ミトコンドリアDNAに作用しミトコンドリア機能をコントロールする塗布型がん治療薬の開発を目的とし、PIP候補化合物のライブラリ構築とその効果について検討を行った。昨年度の研究ではミトコンドリア標的と皮膚透過を両立が期待できるトリフェニルホスフィン部位を持ち分子量1000程度のPIPライブラリを作成し、HeLa細胞および、HDF細胞において顕著な細胞毒性を示すことを明らかにした。そこで作成したPIPがどのように細胞に作用しているのか細胞毒性を示したPIPで処理した細胞の変化を観察したところ、老化した細胞が観察された。このことから、PIPはミトコンドリアに作用し、細胞の老化を誘導、死に至らしめることが分かった。また実際に皮膚を透過しうるかどうかマウス背部の皮膚を用いて検討を行った。その結果皮膚透過促進効果を持つラウロカプラムの存在下PIPの透過が確認され、角質の除去によってさらに促進されることが明らかとなった。このように小分子量のミトコンドリア標的PIPは皮膚を透過して細胞死を誘導する化合物として期待できる化合物であることが明らかになった。
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