マメ科植物と根粒菌の共生過程では、多様な活性分子種が産生され、主にシグナル伝達に機能している。しかしながら、活性分子種の一つである活性イオウ分子種(RSS)については産生メカニズムおよび機能の理解がほとんど進んでいない。本研究は、ミヤコグサと共生根粒菌の根粒共生過程で発生するRSSの、産生機序と機能の解明を目指す。 RSS産生酵素として知られる、シスタチオニンγリアーゼ(CSE)、システイニルtRNA合成酵素(CARS)、3-メルカプトピルビン酸硫黄転移酵素(3MST)について、それぞれの遺伝子が変異した根粒菌の共生表現型を解析することで、RSS産生に関わる酵素の特定と役割の解明に取り組んだ。 RSSは、主に根粒内の感染細胞で産生されていた。CSE、CARS、3MSTの変異根粒菌株が感染した根粒では、RSS産生量が減少しており、いずれも共生中のRSS産生に寄与していた。変異株では、システインパースルフィドとグルタチオンパースルフィドの減少が顕著であり、根粒内で機能する具体的なRSSの特定が進展した。CSE、CARS、3MSTの変異株が感染した根粒では、複数の硫黄化合物量・アミノ酸量が変化しており、いずれの酵素も硫黄・アミノ酸代謝の全般に関与していることが示された。さらに、いずれの変異株においても共生宿主の植物生長が野生型と比較し矮小であり、共生窒素固定の活性が低かった。また、変異株の感染根粒は早期老化を示した。以上の結果から、根粒菌のRSS産生酵素が、宿主植物との共生器官である根粒内においてもRSS産生および、硫黄・アミノ酸代謝に機能していること、また、それらの代謝が正常な根粒共生の成立に必要であることが示された。
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