昨年度までの研究において、パプリカのがくにおける元素の局在と尻腐れ発症との間に有意な相関は認められなかった一方で、胎座におけるホウ素およびマグネシウム分配との間に有意な相関が認められた。そこで、これら果実部位における元素の局在と遺伝子発現変動との関係を調査するため、尻腐れが開花後20日前後の果実肥大期に発生し易いという報告をもとに、開花後14日目、21日目の果実についてそれぞれ果柄、がく、胎座、上皮および下皮に切り分けてRNA抽出を行い、トランスクリプトーム解析を行った。その結果、元素の輸送に関わる遺伝子発現変動は認められなかったものの、果皮において細胞壁の硬化/軟化に関わる酵素をコードする遺伝子発現と尻腐れ発症との関係性が示唆された。また、パプリカの尻腐れは果皮と胎座(隔壁)が接合する箇所から発症していることを見出し、隔壁にホウ素およびマグネシウムが分配されないことで、隣接した果皮の細胞壁の形成がうまくいかず、尻腐れが発生している可能性が示唆された。ホウ素は細胞壁中のペクチン質の架橋構造を形成し、マグネシウムも果実肥大および硬化/軟化に関わる元素であるため、これら元素や遺伝子発現が変動していた酵素の活性の増減が、尻腐れ発症に密接に関わっていることが示唆された。 「がくにおいてカルシウムもしくはホウ素(またはその両方)を、がく組織内へ積極的に取り込む輸送体が存在し、果実方向へのカルシウムもしくはホウ素流入を調整していることが、尻腐れ発生に密接に関与している。」という仮説はほぼ棄却されたものの、他の果実部位である胎座と尻腐れ発症との関係性が示唆された点において、本研究で得られた結果の新規性は高く、論文を執筆し投稿する予定。
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