研究課題/領域番号 |
21K14764
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
老木 紗予子 京都大学, 農学研究科, 助教 (40843090)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糸状菌 / 精油 / ファルネソール / ABCトランスポーター |
研究実績の概要 |
現在広く使用される抗真菌薬は人工合成されており、これらの薬剤に対する病原菌耐性株の出現が問題となっている。精油は植物が産生する揮発性の親油性化合物であり、様々な微生物に対して抗菌作用がある。バラの主要な精油成分であるファルネソールは、ヒト病原糸状菌Aspergillus fumigatusに抗菌活性を示し、天然由来の新たな抗真菌薬としての利用が期待できる。本研究では、糸状菌におけるファルネソール排出系の分子同定および基質認識機構の解明を目的とする。今年度は、RNA-seq解析でファルネソールに応答して発現上昇した2種類のABCトランスポーターCdr1BとAtrAについて、それらの遺伝子破壊株を用いてファルネソール感受性およびファルネソール処理菌糸細胞の細胞内ファルネソール蓄積量を調べた。その結果、cdr1B遺伝子破壊株は野生株と比較してファルネソールに高い感受性を示し、細胞内に多くのファルネソールを蓄積した。一方、atrA遺伝子破壊株のファルネソール感受性および細胞内ファルネソール蓄積量は野生株と同程度であった。したがって、A. fumigatusのファルネソール応答において、ABCトランスポーターCdr1Bが機能することが示された。 一方、Pseudomonas属細菌が産生するピロールニトリンもファルネソールと同様に天然由来の抗菌物質であり、農薬として広く使用されるフルジオキソニルのリード化合物である。近年、フルジオキソニルに対する植物病原菌耐性株の出現も複数報告されている。そこで、植物非病原性糸状菌Penicillium属菌を対象として、ピロールニトリンとフルジオキソニルに対する耐性株を探索した。その結果、101株のうち13株が両剤に耐性を示し、農薬に直接暴露されない植物非病原性糸状菌においても耐性出現のリスクがあることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、研究開始当初の計画通り、ファルネソールの排出にかかわる輸送系を特定できた。また、ファルネソールと同様に天然由来である抗菌物質ピロールニトリンに対する植物非病原性糸状菌の耐性株の探索にも着手し、論文報告に至ったため、おおむね順調に進展したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年2月に所属先を変更したため、X線結晶構造解析を行う環境が整っており、当該実験に要する経費が不要となった。一方で、現在糸状菌A. fumigatusを扱う環境にないため、安全キャビネットとオートクレーブを新たに購入する必要がある。今後は、引き続き基質認識機構の解明を目指す。
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