研究課題/領域番号 |
21K14765
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
奈須野 恵理 宇都宮大学, 工学部, 助教 (80709329)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クオラムセンシング / 蛍光プローブ / 細胞間情報伝達 |
研究実績の概要 |
細菌の細胞間情報伝達機構の1つであるクオラムセンシング(QS)機構は、植物病原菌において病原性因子の生産制御に関与している。また、植物が生産するQSシグナル類似物質に応答する細菌も存在し、生物種を超えた細菌-植物間のシグナリングも報告されている。QS機構の解明と制御は化学農薬に頼らない持続可能な農業の実現に重要であることから、本研究ではグラム陰性細菌の代表的なQSシグナルであるNアシルホモセリンラクトン(AHL)に着目した。AHL受容体を保有する細菌のみを網羅的に蛍光標識するプローブの開発を目指し、アシル鎖長の異なるAHLをベースにアシル鎖末端に環境応答性の4-nitrobenzo-2-oxa1,3-diazole (O-NBD)基を導入した各プローブ分子をシリーズ合成した。 アシル鎖長がC10, C12の蛍光プローブの合成に成功し、NMRにて構造を確認した。遺伝子工学的にAHL生産能を欠失したAHLレポーター株にこれらの蛍光プローブ分子を外部添加して培養したところ、QS制御下にある色素の生産を誘導した。この結果から、アシル鎖末端に蛍光基を導入したプローブが細菌細胞内のAHL受容体に天然のAHLと同様に分子認識されていることが明らかとなった。蛍光プローブの蛍光基がAHL受容体へと転移し新たに共有結合が形成されることでAHL受容体が蛍光標識されるため、細菌細胞の蛍光検出[λex = 470 nm, λem = 530 nm]を試みたが、有意な蛍光量が得られなかった。細胞内でのAHL受容体の分子数が少ない、アシル鎖長が最適ではなくAHL受容体へ蛍光基が転移されない等の原因が考えられることから、今後はC8以下、C14以上のアシル鎖長の蛍光プローブを有機合成すると共により感度の高い蛍光検出法を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アシル鎖長がC10, C12のAHL蛍光プローブの合成に成功したが、シリーズ合成を予定している蛍光プローブの3割程度に留まっている。アシル鎖長がより短いAHL分子は親水性が高くC10, C12のAHL蛍光プローブと同様の抽出・精製手順では十分な収量が得られないため、使用する有機溶媒や精製法の改良が必要である。また、細菌細胞内のAHL受容体を細胞非破壊・リアルタイムに蛍光標識することが理想であるが、蛍光強度が不十分である可能性が示唆されたため、蛍光プローブがAHL受容体を標識しているかどうかを評価するための高感度蛍光検出法の検討も必要である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は継続してアシル鎖長の異なるAHL蛍光プローブを合成する。アシル鎖長がC10, C12の蛍光プローブの評価はChromobacterium violaceumのAHLレポーター株を利用したが、アシル鎖長がC6, C8の蛍光プローブの機能評価は、QS機構により赤色色素生産を制御しているSerratia marcescensのAHLレポーター株を利用する。AHLレポーター株の培養液の蛍光強度を測定することでAHL受容体の生産量を評価することが理想的だが、蛍光量が少なく検出困難である可能性もある。その場合は菌体破砕液中のタンパク質を濃縮してからSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ゲル上に蛍光プローブ溶液を塗布してAHL受容体の蛍光標識を試みる。また、天然のAHLが共存する条件でAHL受容体の蛍光標識が拮抗阻害される閾値濃度を見積もる。 最終的には、C6~C16までの幅広いアシル鎖長のAHL蛍光プローブを用いて、自然界の実試料からAHL受容体を保有する未知の細菌をマイクロコロニーアッセイによりスクリーニングする。メンブレンフィルター上に吸引ろ過して捕集される細菌のうち寒天培地上で培養してマイクロコロニーを形成可能な生菌のみを対象とし、視野面積の広い低倍率で観察し蛍光を発する細菌コロニーを選択可能であると期待される。DNAや生体へのダメージが少ない470 nmの青色LEDで励起しN-NBD基由来の蛍光を検出可能な高感度発光蛍光イメージングシステムで蛍光強度を数値化し、コロニーサイズの増大に伴い蛍光強度が増加する細菌の特定を試みる。
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