これまでの研究から、糸状菌Aspergillus nidulansにおいて、分生子が等方的に無極性生長して発芽するまでの間に、ホスファチジルエタノールアミン (PE)量が顕著に上昇し、ホスファチジルコリン (PC)量が顕著に減少することが示された。PE合成に関わるpsdA、psdB、psdC、psdDおよびPC合成に関わるpemA、pemBの発現量を解析したところ、発芽前にPE合成に関わる遺伝子の転写量が増加すること、PC合成に関わる遺伝子の転写量が減少するなど、脂質解析と一致する結果が得られた。発芽前に増加するPE量の意義を調べるため、psdB欠失株、psdC欠失株、psdD欠失株を解析した。網羅的な脂質解析から、発芽前にミトコンドリア特異的な脂質増加も明らかになったため、これら破壊株のミトコンドリア形態を調べた。出芽酵母 Saccharomyces cerevisiaeのTom70のA. nidulansにおけるオルソログ(TomAと命名した)を指標にミトコンドリア形態を評価したところ、psdD欠失株において発芽前にTomAの局在がドット状になる、ミトコンドリア形態が異常になる結果が得られた。これらの結果から、発芽前に上昇するPEが正常なミトコンドリアのために必要である可能性が示唆された。 糸状菌のメンブレンコンタクトサイトの意義として、脂質輸送タンパク質に着目した。小胞体と細胞膜とのコンタクトサイト形成に関わる因子とS. cerevisiaeのSec14のオルソログに当たる因子について、それぞれの欠失株が同様の表現型を示すことが分かった。培養温度により、欠失株の表現型が大きく異なることも明らかとなり、メンブレンコンタクトサイトの解析において環境温度を考慮する重要性も見えてきた。
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