研究課題/領域番号 |
21K14776
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
豊竹 洋佑 立命館大学, 生命科学部, 助教 (60843977)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 酢酸菌 / 酢酸発酵 / 生体膜 / 脂肪酸 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
酢酸菌が主として生合成するcis-バクセン酸(18:1)が、本菌の膜リン脂質に含まれる全アシル鎖の過半数を占めることが分かっている。しかし、このような酢酸菌特有の膜リン脂質アシル鎖組成がもつ生理的意義については理解が進んでいない。 本研究では、Acetobacter pasteurianus SKU1108を用いて、酢酸発酵条件下におけるリン脂質アシル鎖の構造と機能の相関を調べた。18:1、パルミトレイン酸(16:1)、ミリストレイン酸(14:1)を添加したエタノール培地(酢酸発酵条件)で本菌を培養したところ、添加した不飽和脂肪酸の鎖長が短くなるほど本菌の生育が促進された。 しかし、同酢酸発酵条件下でステアリン酸(18:0)、パルミチン酸(16:0)、ミリスチン酸(14:0)のどれを与えても本菌の生育に変化はみられなかった。ここで培養後の菌体由来の膜リン脂質アシル鎖組成を分析した結果、添加した不飽和脂肪酸の膜リン脂質への取り込みが確認された。また、その鎖長が短くなるほど、より顕著に取り込まれることが見出された。次に、本菌の膜結合型アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子を欠損させた酢酸発酵能欠失株を構築し、その株を用いて上記と同様の実験を行った。その結果、エタノール存在下で不飽和脂肪酸(特に14:1)の顕著な取り込みと生育促進効果が確認された。また、培養液中のエタノールと酢酸を定量した結果、添加した不飽和脂肪酸の鎖長が短くなるほど菌体あたりのエタノール消費量と酢酸生産量が減少することが示唆された。以上の結果から、(1)エタノール存在下で本菌は外環境に存在する不飽和脂肪酸を積極的に取り込むこと(2)不飽和脂肪酸を取り込んだ菌のエタノール代謝能や酢酸発酵能が低下していること(3)内在性の18:1より鎖長の短い16:1、14:1の方が生理的により大きな影響を与えることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で新たに構築した酢酸発酵能欠失株のエタノール応答と野生株のエタノール・酢酸応答を比較することで、培地中のエタノールが酢酸に変換される過程での酢酸菌膜リン脂質アシル鎖の構造と機能の相関をより深く理解することができた。また、一般に膜リン脂質アシル鎖組成形成に関与するとされるリゾホスファチジン酸アシル基転移酵素(LPAAT)に着目し、SKU1108株が3種のLPAATホモログ(ApPlsC1-3)を有すること、ApPlsC1のみがE. coliのLPAATホモログ(PlsC)温度感受性変異を抑制することを新たに見出した。さらに、ApPlsC1高発現株のリン脂質組成を解析したところ、18:1含有リン脂質の相対値がE.coliのPlsC高発現株と比較して有意に高かったことから、ApPlsC1が酢酸菌特有の膜リン脂質アシル鎖組成を生む重要な酵素であることが示唆された。以上の成果については、当初予期していた以上の進展といえる。一方、不飽和脂肪酸含有リン脂質が酢酸菌膜タンパク質の構造と機能におよぼす影響については解析が進んでおらず、膜リン脂質アシル鎖の機能を分子レベルで解明するには至っていないため、総合的には「おおむね順調に進展している」と評価することが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
酢酸菌膜リン脂質アシル鎖の機能については、各種不飽和脂肪酸(14:1など)を膜リン脂質に取り込むことで、SKU1108株の膜プロテオームや転写プロファイルにどのような変化が起きるのかを調べる。また同時に、本菌の膜物性への影響の解析も進める。酢酸菌由来のLPAATホモログの機能については、ApPlsC1の酵素学的な特性解明を進めるとともに、ApPlsC2、3と合わせてそれらの遺伝子破壊株の構築を試みる。また、不飽和脂肪酸の取り込みに関与すると予想される遺伝子をSKU1108株のゲノムから予測し、その生理機能解析にも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張の機会がコロナ禍の影響でほぼ消失したことから、旅費として計上していた予算の一部を次年度に使用することとした。そのため、次年度使用額が生じた。主として、タンパク質解析や脂質解析、また培養用試薬などの消耗品の購入費に充てる計画である。
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