研究課題/領域番号 |
21K14778
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
高野 壮太朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, NIMSポスドク研究員 (90896979)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 1細胞観察 / 休眠 / 飢餓応答 / 代謝モデル |
研究実績の概要 |
本研究では、代謝活性が著しく低下した微生物の休眠覚醒プロセスにおける確率性と基質依存性を明らかにすることで、休眠覚醒プロセスを微生物ごとに予測・制御する技術へと発展させることを目的としている 。1年目は、大腸菌を用いて、炭素源が不足する環境から個々の細胞の再増殖の様子を長期間観察し、休眠覚醒のタイミングが細胞ごとにどの程度ばらついているのかを検証した。 確立した1細胞観察系を用いて数千に及ぶ細胞の再増殖ダイナミクスを観察し、観察結果に対して細胞系譜を用いた解析を実施したところ、新たに炭素源を与えてから再増殖するまでの時間(lag-time)が短い細胞が特定の系譜に偏って存在することが明らかとなり、休眠覚醒プロセスに系譜依存性があることが示唆された。また、基質として与える炭素源の種類が、大腸菌の休眠覚醒プロセスに与える影響を検証するため、ゲノムスケール代謝モデルを使って、増殖基質として利用可能な数十種類の炭素源の至適度を予測する手法の確立に取り組んだ。その結果、各炭素源の増殖基質としての至適性が、それらを代謝するために利用される代謝経路のコストに依存することが明らかとなった。また、様々な微生物を対象として炭素源の至適性を調べたところ、ゲノムから構築された代謝ネットワークの中でも、特定の代謝経路の類似度が高い微生物ほど、似通った炭素源の至適性を示す傾向にあることが分かり、特定の代謝遺伝子セットとの間に強い関連性があることが明らかとなった。また、これらの知見を基に炭素源の至適性に大きく影響を与える代謝反応をスクリーニングする手法を確立し解析を行なったところ、非常に少数の代謝反応や遺伝子によって炭素源至適性が左右されている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は、確率的な休眠覚醒メカニズムの検証に向けた1細胞観察系の構築やそれを利用した再増殖ダイナミクスの観察を目標としており、すでにそれらの準備や観察を終えて、確率性を評価する手法の確立に取り組んでいる。また、休眠覚醒の基質依存性を代謝モデルによって推定することも目標の一つとしていたが、こちらについても、すでに手法の確立を終え、重要となる代謝遺伝子や代謝経路をスクリーニングする研究に取り組んでいる。以上のことからおおむね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目以降は、1年目で確立した観察系を基にして、飢餓環境での培養時間を変化させるといった条件の違いによる影響を検証し、休眠覚醒における確率性と飢餓環境の間にある関係性を定量的に調べていく計画である。また、1年目にゲノムスケール代謝モデルを使って予測した基質依存性を、飢餓環境といった代謝活性が著しく低い条件においても適用可能であるかを検証することも進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
顕微鏡画像の解析にあたって、当初購入を予定していた有償の画像解析ソフトウェアではなく、オープンソースで無償で配布されている解析パッケージを使用したため、その分の必要経費について差額が生じている。また、国内・国外での学会発表や論文化を予定していたが、研究の進捗等を鑑みて、令和3年度についてはそうした研究発表については行わなかったため、その分の必要についても差額が生じている。以上の理由から、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額については、今年度参加を見送った国内外での学会発表に伴う渡航費に充てる他、数値シミュレーション・画像解析を用いた研究を加速する上での解析用PC、ソフトウェアの購入に充てる予定である。
|