本研究では、e-テキスタイルや生体内センシング応用へ期待されるバイオエレクトロニクス用デバイスにおいて、電極触媒として用いられる酸化還元酵素の酵素電気化学反応の向上を目指した変異体分子設計指針の確立を目的とする。 前年度(初年度)は、優れた熱安定性・長期安定性を有する超好熱性アーキアPyrobaculum aerophilum由来マルチ銅オキシダーゼ(McoP)をコードする遺伝子に対して、ランダム変異を導入した後に大腸菌へ導入した変異体ライブラリに対して電気化学スクリーニングを実施した。酵素電気化学反応に変化が確認された変異体についてDNAシーケンスを実施したところ、これまでに報告されていない部位への変異導入が確認された。 最終年度は、酵素の立体構造における酵素機能への高影響部位の特定および高影響部位への飽和変異導入による酵素機能への影響について検討した。McoP変異体ライブラリのスクリーニングデータを用いて階層クラスター分析を行った。クラスタリング結果からDNAシーケンスに供する優れた電極触媒性能を示す変異体を決定し、652変異体中117変異体をDNAシーケンスへ供した。本研究では分子状酸素の電気化学的還元開始電位に焦点を当てた。DNAシーケンスの結果から各変異体におけるアミノ酸残基置換を調べた。酵素の一次配列を3~7アミノ酸残基の小配列に区切り、各領域へ変異が導入された際の還元開始電位の平均変化量および分散を比較することで酵素機能に対する4か所の高影響部位を特定した。高影響部位へ飽和変異を導入した2ndライブラリを作製したところ、1stライブラリの1/4のサイズにも関わらず、多くの変異体で還元開始電位の正側シフトが確認された。そのため、少ないライブラリ数で酵素の性能向上が可能な方法が確立できたと考えられる。
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