単純ヘルペスウイルス1型 (HSV-1) は主に口や唇などに水疱 (口唇ヘルペス) を引き起こすウイルスである。HSV-1は病原体である一方、腫瘍細胞のみを破壊するよう改変し、標準治療と比較して極めて有効な抗がん剤 (ウイルス療法薬) として応用された。承認されたウイルス療法薬に続き、新たな改変が導入されたウイルス療法薬が開発途上にある。こうした背景からHSV-1研究の重要性は高まっている。本研究ではHSV-1の増殖において中心的な役割を持つγ34.5とγ34.5が標的とするヒトタンパク質複合体の立体構造を決定し、HSV-1増殖機構の一端を明らかにする。 γ34.5の大量発現・精製系の構築を様々な手法を用いて行ったが、結晶化条件のスクリーニングに使用できる量のγ34.5を得ることはできず、γ34.5単独の立体構造解析は断念した。次いで、ヒトタンパク質protein phosphatase 1 α subunit(PP1α)の大量発現・精製系を構築し、PP1αと結合すると考えられるγ34.5の領域をペプチド合成した。これらを混合し、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー/SDS-PAGEで結合することを確認し、γ34.5ペプチド-PP1α複合体の調整条件を確立した。このγ34.5ペプチド-PP1α複合体の結晶化条件スクリーニングを行い、複数条件で結晶が得られた。また、そのうちの1条件はPP1α単独では結晶が得られず、γ34.5ペプチドを添加した時のみ結晶が得られたため、目的とする複合体の結晶である可能性が強く示唆された。
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