研究課題
味覚は、甘味及び旨味、苦味、酸味、塩味の基本5大味から構成され、味物質が舌上皮に存在するI-III型の3種類の味蕾細胞に受容されることで感知される。小胞体タンパク質のJaw1は、味覚のシグナル伝達に重要なカルシウムイオンチャネルであるIII型イノシトール三リン酸受容体(ITPR3)と相互作用することが分かっている。さらに、Jaw1はII型味蕾細胞の亜集団に特異的な発現を示し、その遺伝子欠損マウスでは塩味の感知に異常が生じることを見出している。一方で、塩味の感知を担う味蕾細胞とそのメカニズムの詳細は不明な部分が多い。そこで本研究では、カルシウムシグナリングにおけるJaw1の分子機能の解析、そして塩味を中心とした味覚におけるJaw1陽性味蕾細胞の生理的な存在意義を明らかにすることで、その理解の深化を試みた。結果として、Jaw1とITPRsの相互作用がGPCR刺激依存的な小胞体由来のカルシウムイオン放出の増強効果をもたらすことを、培養細胞を用いて明らかにした。このJaw1によるカルシウムイオンの放出活性の増強効果は、ITPR1-3の三種類のいずれのサブタイプに対しても認められたが、そのシグナルの持続性や頻度、最大強度といった増強効果の特徴がサブタイプ毎に異なっていた。さらに遺伝子改変マウスから単離した味蕾細胞のカルシウムアッセイでは、Jaw1陽性の味蕾細胞が塩味に対して反応を示した。以上から、塩味感知のカルシウムシグナリングにおいてJaw1が重要な因子として働く可能性が示唆された。一方で、味蕾細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析も実施し、Jaw1陽性のII型味蕾細胞の亜集団に特異的な発現を示す遺伝子を見出した。これらの結果は、味蕾細胞が多様な集団から構成されることを示すものであり、I-III型という従来のコンセプトよりも細分化された集団毎の味覚機能の解析が今後期待される。
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