「咀嚼時に食品の構造がどのように変形・破断すると、いかなる食感と心地良さが生まれるのか?」は不明であり、現在の多くの食品製造工業では、経験に基づく試作と食感評価を繰り返すことで、食感の改良を図っている。本研究では、論理的に食感の改良を図るための基礎を確立することを目的とした。本目的を達成するには、食感を高精度に定量化することが不可欠である。食感を定量化するための計測機器の代表例として、テクスチュロメーター等があり、食品に付加した力に対し、食品が反発する力や挙動を計測する。しかし、これらの機器計測で得られた数値は、人が認知する食感と必ずしも一致しないといった課題が存在する。これは、既存の機器が“平均的”な力学挙動を計測していることに起因すると考えられる。昨年度までに、圧縮時の食品内部における“局所的・非均質的”な変形・破断挙動を計測する新たな機器の開発に取り組んだ。そして、本計測法が既存法の有する欠点を克服可能であることを実証した。具体的には、まず、2種類のゲル状のモデル食品試料を作製した。これらは、人が咀嚼した際の官能評価においては、極めて高い正答率で異なる食感と認識されるが、従来のテクスチュロメーターを用いた試験では、有意な差が認められないものである。一方、開発した新たな食感計測法では、これら2種類の試料を高い精度で識別することができた。すなわち、既存法では不可能な“人が認知する微妙な食感”であっても計測できることを示した。最終年度である2023年度は、咀嚼時の人の左前頭部の活動電位を計測した。咀嚼時に変化する活動電位とアンケート調査で得られる心地良さの強度をセットにして網羅的に解析した結果、食感に起因する心地良さを数値化できる可能性を見出した。本研究で得られた成果は、食感と心地良さを論理的に予測する基礎の確立につながると期待できる。
|