骨格筋量は不活動や加齢などにより低下するが、骨格筋量の低下は運動機能の低下だけでなく2型糖尿病などの代謝疾患のリスク増加にもつながる。骨格筋の量的・質的な増強には運動が有効であるが、運動による骨格筋の量的・質的な増強効果の分子機構は未だ不明な点が多い。これまでに運動後の血中ビタミンA濃度が変化することが報告されているが、運動後のビタミンAの代謝調節機構や生理機能は明らかではない。本研究では、「運動によるビタミンA代謝の変化が骨格筋機能にどのように関与するのか?」を明らかにすることを目的とした。 トレッドミルを用いた強制運動直後のマウス肝臓及び骨格筋中のレチノイド量を解析した結果、運動直後の肝臓中レチニルパルミテートとレチニルステアレート量が有意に増加した。骨格筋中のレチノールは運動によって有意に増加した。また、運動を模した代償性過負荷モデルを用いて骨格筋を解析した結果、過負荷によって、ビタミンAの取り込みに関与するタンパク質の発現量が顕著に増加した。ビタミンA欠乏食を摂取させ、体内のビタミンA量を低下させたマウスでは過負荷による骨格筋量の増加量が低下した。ビタミンA欠乏食によって過負荷による骨格筋でのタンパク質合成の増加が抑制された。また、マウスの足底筋にレチノイン酸受容体のアンタゴニストであるAGN193109を投与した結果、過負荷による骨格筋量の増加量とタンパク質合成の増加率が低下した。 以上の結果から、運動によって骨格筋でのビタミンA代謝が変動することが明らかとなり、運動による骨格筋量の増加にビタミンAシグナルが関与することが示唆された。
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