研究実績の概要 |
糖代謝異常は、さまざまな疾患のリスクを上昇させるリスク因子として、広く認識されている。申請者らが見出した新規な糖代謝制御遺伝子であるSmek2(Suppressor of mek1, homolog 2)は解糖系の律速酵素である肝臓型ホスホフルクトキナーゼ(PFKL)の発現制御を介して肝臓の糖および脂質の代謝を制御している。しかし、Smek2に欠損変異を持つExHCラットにおいて、糖代謝との直接の関連が指摘されていない高ホモシステイン血症や、脳での不溶性アミロイド蓄積量の増加などが確認されている。また、Smek2の機能解析に関する先行研究の問題点として、Smek2の単一ノックアウト系が確立されていない点があった。本研究はSmek2単一ノックアウトラットの作製を試み、作製したノックアウトラットの代謝を評価することでSmek2の機能の全容を解明することを目指し、先行研究において確認されたホモシステイン血症やアルツハイマー型認知症の新規モデル動物としての可能性を追求する。 令和5年度は、引き続き、ゲノム編集によるSmek2ノックアウトラットの作製に取り組み、過排卵誘導の方法や手術方法の見直しを行い、採卵数やエレクトロポレーション後の受精卵の生存率などに一定の改善を見たが、Smek2ノックアウトラットの作製には至らなかった。 また、並行して、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5YへのSmek2過発現系を構築し、神経細胞に対する影響を評価した。Smek2の過発現によりアルツハイマー型認知症の原因物質であるβ-アミロイドの産生量が減少した。このとき、β-アミロイド産生に対する抑制作用が報告されている肝臓X受容体(LXR)の遺伝子発現量がSmek2を過発現させたSH-SY5Y細胞内で増加しており、Smek2の機能は脳においてアルツハイマー型認知症の発症に関与しうることが明らかとなった。
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