研究課題
日々の食生活から摂取可能である食品機能に対する社会的需要は高い。実際の食生活において、食品素材を単独で摂取することは稀であり、多彩な組合せが生じている。とりわけ、「飲」と「食」は、切り離すことができない。ほとんどの場合、茶や酒、また出汁等を飲みながら食品を摂取しており、飲料と食品の混在頻度は極めて高い。つまり、食生活における真の食品成分及び機能性を把握・活用するには、「飲」と「食」の関連性の解明が不可欠である。ところが、現在の研究は、各食品素材の成分及び機能性に焦点があてられ、飲と食の係わり合いは、ほとんど明らかにされていない。本研究では、様々な飲料及び食品の組合せが食品機能に与える影響について、含有成分全体像に着目した基礎的研究を行う。メタボローム解析を応用することで新たに構築した、機能性ベースの網羅的成分評価システムを活用し、「飲」と「食」の混在に起因する含有成分変化及び機能変化の全体像を明らかにすることにより、実際の食生活に準じた成分及び機能性の解明を目指す。以上により、各飲料・食品の単なる足し合わせではない成分及び機能性、言うなれば「食事成分・食事機能性」の提示を試みる。
3: やや遅れている
初年度は、「飲」と「食」の関連性の解明に向け、適用する飲料と食品の選定を行った。糖代謝異常の予防・改善に寄与しうる作用点として、抗炎症能に着目し、様々な飲料及び食品の単独添加について、培養細胞評価系を用いた機能性評価を行った。その結果、かつお節由来出汁・にぼし由来出汁・干ししいたけ由来出汁に抗炎症能(NO産生抑制能)を見出した。和食はユネスコ無形文化財にも登録され、世界から健康食として注目されている。和食において、出汁は基盤となる調味料であり、その摂取頻度は極めて高い。それ故、うま味を中心とした味覚に関する研究が活発に行われてきたが、出汁に含有する機能性成分については、ほとんど解明されていない。当初、個々の飲料及び食品に対する詳細な研究は行わず、混在に起因する含有成分変化及び機能変化に焦点を当てる予定だったが、出汁の機能性成分研究の価値は非常に高いと考え、実施を試みた。抗炎症能を示した上記出汁について、メタボローム解析を行ったところ、カツオ出汁から365化合物、シイタケ出汁から352化合物、ニボシ出汁から346化合物を推定した。また、メタボローム解析と同分析条件のHPLC分画で得た各40画分(計120画分)について、NO産生抑制能を検討したところ、多数の画分が抗炎症能を示し、出汁が有する抗炎症能は、少数の化合物ではなく、多様な化合物に起因することが示唆された。現在、抗炎症能が認められた画分の溶出時間を指標に、メタボローム解析により推定された化合物から、抗炎症化合物の探索・同定を進めており、幾つかの候補化合物を取得している。一方、初年度までに、「飲」と「食」の関連性の解明に適用する飲料と食品の選定を完了させる予定だったが、進捗がやや遅れている。この点について、出汁の機能性成分研究とともに、急ぎ研究を進めている。
次年度は、飲料と食品の混在下における成分及び機能性変化について検討し、「飲」と「食」の関連性を解明する。進捗状況の遅れを鑑み、より簡潔なモデル系として、研究対象を食品から代表的な食品機能性成分に修正する。上記修正により、多数成分同士の混在状態に対する知見が得られなくなるが、新規性・実用性は十分に担保されるとともに進捗の遅れを改善できると考える。具体的には、様々な飲料と多様な化学的構造を持つ食品成分の単独及び混在下における機能性を検討し、混在による変化が生じる組合せを選定する。機能性変化を有する組合せについて、飲料・食品成分・混合物のメタボローム解析を行い、含有成分の超精密質量の測定、データ解析(溶出時間・ピーク強度・組成式等)、代謝物データベース検索から、網羅的な成分特定を行う。上記メタボローム解析と同分析条件により、飲料・食品成分・混合物のHPLC画分を作成し、機能性評価を行う。得られた網羅的成分情報と機能性を溶出時間を指標に結び付け、飲料・食品成分・混合物を比較する。以上の実験から、新たに創出される・維持される・消失する成分と機能性変化を網羅的に把握し、当該変化の全体像から、「飲」と「食」の関連性の解明を試みる。
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PLOS ONE
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10.1371/journal.pone.0267248