研究課題/領域番号 |
21K14817
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
織 大祐 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (70709287)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ACA / 炎症 / 自己炎症性疾患 |
研究実績の概要 |
本研究では、東南アジア原産のショウガ種に由来する成分である1'acetoxychavicol acetate (ACA) が、細胞内免疫複合体であるインフラマソームの形成に対してどのような効果を有するのかを評価した。インフラマソームは、NLRP3を代表とした様々な細胞内自然免疫受容体を起点として形成され、炎症性サイトカインであるIL-1betaやIL-18の放出に必須であり、様々な自己炎症性・自己免疫性疾患に関与することが明らかとなっている。マウス骨髄由来マクロファージをACAで処置したのち、細菌毒素であるNigericineや内因性のダメージ関連分子であるATP、細菌の鞭毛成分であるフラジェリン、DNAであるpoly(dA:dT)などの活性化剤を用いてインフラマソーム形成を誘導したところ、ACAはNLRP3を介したインフラマソーム形成を抑制していた。それに伴いACAは、NLRP3活性化時のCaspase-1の活性化やIL-1betaの放出、免疫原性を有するパイロトーシスと呼ばれる細胞死を抑制した。一方、NLRP3以外の自然免疫受容体(NLRC4やAIM2など)を介したインフラマソーム形成に対しては効果を示さなかった。さらに詳細な解析を行ったところ、ACAは、ミトコンドリア内を含む細胞内の活性酸素種の産生を抑制することで、内因性のNLRP3活性化物質である酸化ミトコンドリアDNAの生成および細胞質への放出を抑制していることを見出した。次に、マウスを用いて個体レベルでのACAの効果を評価した。疾患モデルとして、NLRP3インフラマソームが関与することが知られる炎症性腸疾患モデル(DSS腸炎モデル)を選択し、ACAを給餌により投与したところ、その病態の改善が見られた。これらのことから、ACAはNLRP3関連疾患において病態改善効果を有する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、ACAがNLRP3インフラマソームの形成を抑制することを明らかにすることができた。また、その効果はNLRP3インフラマソーム特異的であった。ACAのインフラマソームに対する効果の検証は本研究の目標の一つであったため、当該目標は達成できた。さらに、ACAがNLRP3インフラマソーム形成を抑制する機構として、ミトコンドリア内を含めた細胞内活性酸素種を抑制することで酸化ミトコンドリアDNAの生成と細胞質内への放出を抑制することで、その効果を示している可能性が示唆された。現在は、ACAの作用点を探ることを目指し、自然免疫受容体下流のシグナル伝達経路に対するACAの機能など、より詳細な解析を進めており、順調に推移している。さらに、NLRP3インフラマソームは、ウイルス(COVID-19含む)によって引き起こされる急性呼吸器窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)や肝炎、多発性硬化症など、様々な疾患の病態に関与していることから、現在、複数の疾患モデルの確立と、当該疾患の病態に対するACAの効果の評価を進めており、これらにおいても順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めている自然免疫受容体下流のシグナル伝達経路に対するACAの効果の検証を引き続き進めることで、ACAの作用点の詳細を明らかにしていく。個体を用いたACAの効果の検証では、DSS誘導性腸炎モデルにおいて病態の改善効果が見られた。本研究において、ACAはNLRP3インフラマソームを抑制することが明らかとなったことから、ACAは他のNLRP3インフラマソーム関連疾患においても病態の改善効果を有すると期待される。そこで、今後はDSS誘導性腸炎モデルのほかにも複数の疾患モデルマウスを用いる予定であり、現在進めている疾患モデルの確立をさらに進展させる。すでに報告されている誘導条件などを参考に実際にモデル作製にとりかかり、解析に適した投与経路や投与量の検討を進める。また、DSS誘導性腸炎モデルでは病変部が腸であることから給餌投与を選択したが、他疾患モデルではACAの注射による投与(腹腔内投与あるいは経静脈投与)を想定していることから、ACAの投与経路や投与量も併せて検討する。
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