研究課題/領域番号 |
21K14821
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研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
窪田 篤人 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (70879931)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / 芳香族炭化水素受容体 / 成分栄養療法 / 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、制御性T細胞(Treg)を誘導する芳香族炭化水素受容体(AhR)に着目し、成分栄養(ED)療法の有効成分の推定と機序の詳細な探索を行った。特に昨年度発見した AhR リガンド活性を有する Trp 代謝産物の体内動態に着目し、薬物-薬物相互作用並びに血中濃度の測定を行った。 まず、完全匿名化された4.5万人のIBD患者データを対象にED療法と併用される医薬品を探索した。その結果、Trp代謝産物を産生する腸内細菌叢に影響を与える抗菌薬の併用状況が明らかとなった。具体的にはクローン病(CD)において多い順で、フルオロキノロン、セファロスポリン、ST合剤、マクロライド、広域ぺニシリンが併用された。潰瘍性大腸炎(UC)では、ST合剤、フルオロキノロン、セファロスポリン、マクロライド、広域ぺニシリンが併用されており、これらが腸内細菌叢に影響を与え、Trp代謝を阻害する可能性が示された。また、これらの抗菌薬は概ね中央値10日程度で処方されていたものの、一部の患者では最大90日処方されていることから、抗菌薬の適正使用に関する問題点も見出した。 上記の結果を受け、ED及びTrp投与群を陽性対照群として設定し、頻度の高い抗菌薬を投与した in vivo 実験を行った。その結果、これらの抗菌薬の併用は ED, Trp の経口投与による Treg 誘導を消失させ、血中 AhR リガンドの減少を起こすことが分かった。以上の結果は、学術雑誌へ現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床のED療法に準拠したモデルを作成し、薬物間相互作用に関する検討も順調に進んでいる。また、予備検討段階ではあるもののED療法並びにTrpによる小腸-大腸のトランスポーター変動についても傾向を掴んでおり、最終年度に向けた調整も順調に推移している。 加えて、これらによる遺伝子変動の網羅解析も現在進行中である。さらに、最終年度で予定しているin vitro によるIBDモデルも作成が完了した。 一方、当初の想定と比較して解析する対象患者数が増加した(1万人程度⇒4.5万人、1年程度⇒5年間の追跡データ)ことから、大規模レセプトデータベースの解析には時間を要している。現在まで、ED療法と併用される医薬品の動向は解析を終了したものの、ED療法継続に関与する因子の探索は終了していない。この点について、大学院生及び学部生によるサポート体制を整え、検討を加速させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
【in vivo IBDモデル】すべてのサンプル回収は終了している。今年度においては、遺伝子の網羅解析による機序の詳細な推定並びに組織染色によって Treg の局在を明らかにする。 【in vitro IBDモデル】評価系の構築は終了している。今年度においては、昨年度までに見出した化合物に加え、そのリード化合物など十数種類を候補に AhR リガンドによる炎症制御に適したファーマフォコアを in silico ドッキングシミレーションを併用し明らかにする 【大規模レセプトデータベース】本年度はED療法継続に関与する併用薬に関する検討を進めていく予定である。ED療法継続をカプランマイヤー曲線を用いて評価し、併用薬による影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算執行において、マウス血清中のTrp代謝産物に関する測定を外注しており、その支払いが翌年度に繰り越しとなったことから(実験自体は2022年度に終了、測定に3週間必要なことから納期は2023年度)その費用が繰り越しとなっている。従って、本繰越額は全てその解析等に使用される。
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