我々は研究実施期間を通じて、炎症性腸疾患(IBD)の治療標的分子として芳香族炭化水素受容体(AhR)が深く関与している事を明らかにした(Kubota A. et al. Pharmacology. 2022)。まず、我々はIBD治療のキードラッグとして古くより汎用される5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)が AhR のリガンドとなり、制御性T細胞を誘導する事を見出している。従って、本研究では成分栄養療法(ED)に含まれる有効成分のうち、AhRに対してリガンドないしは影響を与える分子について探索した。その結果、EDに豊富に含まれるトリプトファン(Trp)が生体内で代謝され、AhRリガンドとなる事を見出した。特に、Trp代謝物のリガンド活性は単一の評価系で網羅的に解析された報告が乏しかったが、本研究によりそれぞれのリガンド活性が比較可能となった。さらに、これら AhR リガンドの血中濃度を測定し、リガンド活性を示す濃度になった投与量で制御性T細胞が誘導され、IBDモデル動物に対して抗炎症作用を示すことも明らかとなった(Kubota A. et al. IJMS. 2024)。なお、本研究に際し、大規模レセプトデータベースを用いた解析を併せて行ったところ本邦におけるED施行率はIBD全体の10%程度であることも始めて見出し、EDの更なる解析がIBD患者の治療発展に寄与する可能性が示された。
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