研究課題/領域番号 |
21K14829
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
安田 盛貴 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (60749670)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高湿度環境 / シロイヌナズナ / 病原細菌 / 葉内の水浸漬 / アブシジン酸 / エフェクタータンパク質 |
研究実績の概要 |
植物の葉に感染する病原細菌は、高湿度環境下で葉内の細胞間隙に水を蓄えることで、増殖を促進し病原性を発揮する(水浸漬現象)。病原細菌が水浸漬を誘導する仕組みが明らかになる一方で、植物がどのように水浸漬を防いでいるのか、その実態は未だ不明な点が多い。本研究では、シロイヌナズナの植物ホルモンABA(アブシジン酸)代謝酵素CYP707A1/A3を介した水浸漬抵抗性の解明を進める。 CYP707Aは不可逆的にABAを不活化する酵素であり、シロイヌナズナには4つの遺伝子で構成される。高湿度に晒されたシロイヌナズナの葉では、CYP707A1およびA3の遺伝子発現が誘導され、ABA量の減少と気孔開口を引き起こす(Okamoto et al., 2009)。遺伝学的解析から、CYP707A1/A3は病原細菌Pst DC3000感染時の水浸漬抵抗性に寄与することを明らかにした。シロイヌナズナは高湿度に応じてCYP707A1/A3の発現を誘導し、葉の保水性を低下させることで病原細菌による水浸漬を防ぐと考えられる。 次に、高湿度に応じたCYP707A1/A3遺伝子発現の誘導機構を明らかにするため、薬剤処理で関連因子を絞り込んだ。その結果、Ca2+チャネルがCYP707A1/A3の発現誘導に関わることが示唆された。また、Ca2+レポータラインを用いた解析から、高湿度に晒した葉において細胞質Ca2+レベル上昇が認められた。したがって、シロイヌナズナは高湿度に応じてCa2+シグナル伝達を活性化し、CYP707A1/A3の発現を誘導すると考えられる。一方で、Pst DC3000接種葉は高湿度誘導性CYP707A1/A3遺伝子発現が失われることが示された。エフェクター非分泌株は影響を与えないことから、Pst DC3000はエフェクターを介してシロイヌナズナの高湿度応答を攪乱する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画1「高湿度誘導性の細胞膜アクアポリンPIP2;6リン酸化制御機構とABAの役割の解明」については、異なる湿度環境下で受容体様キナーゼBAK1のインタラクトーム解析を行ない、高湿度特異的なBAK1パートナー受容体候補を取得した。 研究計画2「エフェクターを介したABA制御の分子基盤および水浸漬における機能の解析」については、Pst DC3000がエフェクターを介して高湿度誘導性のABA不活化を阻害する可能性を新たに見出した。 また、当初の計画には含まれていない高湿度に応じたCYP707A1/A3の遺伝子発現制御機構についても重要な知見を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画1については、インタラクトーム解析およびRNA-seq解析(東京農大との共同研究で実施)で得られたBAK1パートナー受容体候補の機能欠損シロイヌナズナ変異体を取得し、高湿度処理時のPIP2;6リン酸化を評価する。また、高湿度処理時のリン酸化プロテオーム解析を行ない、さらなる候補因子の同定と絞り込みを進める。 研究計画2については、Pst DC3000のエフェクター欠損株およびエフェクターを発現するシロイヌナズナ形質転換体を用いて、高湿度誘導性CYP707A1/A3遺伝子発現を阻害するエフェクターを特定する。また、CYP707A1/A3遺伝子発現の誘導機構についても制御因子の同定を進める。 研究計画3「ABA阻害剤を用いた高湿度環境におけるPst DC3000の病害防除を検証」については、ABA受容体アンタゴニストの評価試験を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによる国内外の移動および行動制限のため次年度使用額が生じた。今年度に得られた成果から実験計画を見直し、必要な機器・試薬の購入費に翌年度分と合わせて充てることで円滑に研究計画を遂行する予定である。
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