研究課題/領域番号 |
21K14830
|
研究機関 | 神戸薬科大学 |
研究代表者 |
山田 泰之 神戸薬科大学, 薬学部, 助教 (20770879)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | イソキノリンアルカロイド / ハナビシソウ / ジャスモン酸シグナル伝達系 / 転写制御ネットワーク |
研究実績の概要 |
植物が産生する二次代謝(特化代謝)産物は有用だが含量が少ないものも多く、安定供給系の確立を志向した生合成機構の解明は喫緊の課題である。研究代表者は、医薬品原料として有用なものも多いイソキノリンアルカロイド(IQA)の生合成機構の解明に長年携わり、IQA産生植物にユニークなbHLHなどを明らかにしてきた。これらの生合成遺伝子はIQA産生を誘導するジャスモン酸(JA)応答性を示すが、植物普遍的に存在するJAシグナル伝達系のコア複合体(COI1-JAZ-MYC2)との関連性は不明であった。そこで、本研究では、IQA産生植物にユニークなbHLHが関わるIQA生合成系のジャスモン酸シグナル伝達機構の詳細を明らかにし、植物有用特化代謝産物の安定供給に繋がる応用研究基盤を構築することを目的としている。 2021年度は、多様なIQAを産生するケシ科ハナビシソウを用い、JAシグナル伝達系のコア複合体を形成する因子COI1やbHLH転写因子であるMYC2の単離を中心に研究を進めた。JA応答性を示すbHLHで、シロイヌナズナやタバコのMYC2と比較的相同性の高い候補を選抜し、IQA植物普遍的に存在するMYC2の標的遺伝子LOX3のプロモーターに対する転写誘導活性などを確認した。また、ハナビシソウCOI1ホモログを単離し、MeJA応答性の有無の確認や発現抑制株/過剰発現株作出のためのコンストラクト作成と形質転換を行った。 さらに、ハナビシソウの多様なIQA生合成の生産制御に関わるJA応答性のAP2/ERF転写因子の解析、さらにはその下流で機能する可能性の高い生合成関連遺伝子(WRKYやシトクロムP450、ABCトランスポーターなど)の選抜などを行い、JAシグナル伝達機構の一端の解明を進めるとともに、微生物生産への適用など、有用化合物の安定供給に向けた応用研究の一部検証も行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、IQA生合成系の遺伝子発現制御に関わるJAシグナル伝達系のコア因子、およびJA応答性を示す転写制御因子を新たに単離し、他の植物特化代謝や植物プロセス(防御応答など)の制御機構と比較し、その制御ネットワークの進化や意義を明らかにするとともに、IQA生合成機構の全容解明とそれら知見を利用した代謝工学等による物質生産の可能性の検証が中心的な目的である。 2021年度は、研究代表者が遺伝子リソースの整備などを進めてきたケシ科ハナビシソウにおける、JAシグナル伝達系のコア因子の探索を中心に研究を進め、MYC2やCOI1候補の選抜を行った。COI1については相同性検索により候補因子を選抜し、形質転換まで行ったものの、MYC2やJasmonate ZIM domain(JAZ)リプレッサーについては現在も候補因子の解析を進めている状況である。これらは当初の研究実施計画よりやや遅れている一方で、JA応答性を示す新たな制御因子の探索も並行して進め、こちらはMYC2意外のbHLH転写因子やWRKY、AP2/ERFなど複数の候補因子を選抜し、一過的レポーターアッセイによるスクリーニングや形質転換体の作出および選抜を現在も進めている。これら候補制御因子と前述のCOI1やJAZ、MYC2、および既知のIQA生合成系転写因子との関係性(転写因子ネットワーク)を調べることで、IQA生合成系の制御に関わるJAシグナル伝達機構の解明がより進展することが期待される。 さらに、上記制御因子の標的となるシトクロムP450やABCトランスポーターなど様々な生合成関連遺伝子も選抜し、JAシグナル伝達系における遺伝子発現制御ネットワークの一端を明らかにするとともに、レチクリンなどの有用IQA生産系の開発にむけた代謝工学的研究とその検証も進めた。以上のような成果をもとに、研究進捗状況を総合的に判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度以降は第一に、JAシグナル伝達系のコア複合体として知られるCOI1、JAZ、およびMYC2をハナビシソウにおいて機能同定し、IQA生合成系にユニークなbHLHやその他制御因子、およびIQA生合成酵素遺伝子の発現への影響を網羅的に解析する。特に、様々な植物種のJAZやMYC2に共通して見られる相互作用を酵母2ハイブリット法やBiFC法、レポーター系などを用いて迅速に明らかにし、形質転換体を用いた解析と合わせて機能を同定していく。昨年度、ハナビシソウ植物体を用いたアグロインフィルトレーションによる一過的遺伝子発現系を確立したことから、これら解析技術を用いることでより研究の進展が得られると考えている。 さらに、上記の一過的発現系や安定形質転換系を利用し、IQA生合成系にユニークなbHLH転写因子などと相互作用する新規制御因子の探索や、MYC2やその他転写因子のターゲット遺伝子の網羅的解析などを進め、JAシグナルカスケードにおける各因子の役割を推定する。 一方、MeJA応答性を示す機能未知のbHLHやWRKY、AP2/ERF転写因子については、形質転換体の選抜が2022年度中には終了する見込みであり、RNA-seqやRT-qPCR解析、およびメタボローム解析などを組み合わせてその機能解析を進める。さらに、前述のJAシグナル伝達系のコア複合体との関係性や転写ネットワーク、下流の生合成関連遺伝子の発現制御についても、それぞれの形質転換体の解析を通して網羅的に明らかにする予定である。 以上のような研究を遂行することで、本研究の中心的な目的である、IQA生合成系の遺伝子発現制御に関わるJAシグナル伝達系や転写因子ネットワークの進化や意義に関する理解を深め、代謝工学的研究への応用や物質生産制御系の検証も進めていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究に使用する形質転換体の選抜が一部完了していなかったことから、次年度の受託解析費用に充てるために一部の予算を次年度にまわすこととした。
|