研究実績の概要 |
イネNLR型抵抗性タンパク質には、Integrated Domain(ID)を介していもち病菌の(非病原力)エフェクターを認識する、NLR-ID構造を持つタンパク質が存在する。IDは、病原菌エフェクターの宿主標的タンパク質の一部がNLR上に挿入された領域を示し、非病原力エフェクターを認識するためのDecoy(囮)として機能している。本研究では、Oryza属におけるIDの多様性を明らかにし、さらにIDと高い配列相同性を持つ宿主タンパク質に着目することで罹病性遺伝子の単離研究を推進した。 いもち病NLR型抵抗性遺伝子の一種であるPiasは、2つのNLR(Pias-1とPias-2)をによって構成される。Pias-1は抵抗性反応の実行因子としての役割を持つ一方で、Pias-2はいもち病菌の非病原力エフェクター(AVR-Pias)の認識に関わるセンサーとしての役割を持つ。Pias-2には、IDとしてDUF761が存在する。さらに、イネ野生種のゲノム配列情報を利用してPias-2対立遺伝子産物のID領域に注目して解析を進めたところ、DUF761と同じ場所にPKc_MAPKK,WRKY,HMAなど多様なドメインが挿入されていた。また、詳細な進化解析を行なったところ、Pias-2の祖先NLRはIDとしてPKc_MAPKKを有していたが、進化の途中でDUF761へとIDの入れ替えが起きたことが推察された(Shimizu et al. 2022 PNAS)。これらのことから、Pias-2対立遺伝子はID部分を多様化することで、センサーとしての機能を高めたと考えられる。次に、ID領域と相同性の高いイネ遺伝子産物(HpsID)に着目し、HpsIDのCRISPR/Cas9による遺伝子欠損系統の作成を進めた。現在、一部のHpsID欠損イネ系統がいもち病に対して抵抗性を付与したことを示している。
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