国内のオオムギ生産の大部分は排水性が悪い水田転換畑で行われており、湿害に強いオオムギ品種の開発が安定生産のための課題である。本研究では、根伸長角度の制御による根系構造の改変により土壌下層の過湿環境への根の分布を少なくすることで湿害の物理的な回避を目標とし、オオムギにおける根伸長角度制御遺伝子およびその品種間多型の探索を行った。イネで同定されたOsDRO1およびOsqSOR1のオオムギにおける相同遺伝子HvDRO1およびHvqSOR1を探索し、品種間における遺伝子多型解析を行なったところ、各遺伝子に生育初期の根伸長角度と関連する遺伝子多型が存在した。特にHvDRO1にはナンセンス変異を引き起こす多型が存在し、そのアレルを保有する品種は浅い根伸長角度を示した。この浅根型HvDRO1アレルは排水性が特に悪い重粘土壌での栽培が一般的な北陸・長野で育成された系統で比較的多く保有されており、湿害環境への適応に貢献していることが示唆された。 また、水耕栽培においてオオムギの根伸長の品種間差異を評価したところ幅広いバリエーションが見られ、排水性の悪い北陸地方で広く栽培される品種は根伸長を止め根毛を著しく発達させた。エアレーション下では通常の根伸長を示したことから、酸素濃度に応答した根形態の変化であることが示唆された。トランスクリプトーム解析により根形態が変化する栽培条件間での遺伝子発現量を比較したところ、過酸化水素応答に関与する遺伝子群の発現変動が見られ、過酸化水素シグナルによる根形態の変化であることが示唆された。この根形態の変化を制御する遺伝子を同定するために、マッピング集団の開発を進めた。
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