本研究では、環境ストレス等による莢数の変動がダイズ収量に及ぼす影響を定量的に評価するために、莢数の変動と各莢における子実数および1粒重の推移を推定可能なモデルを開発し,子実の形成過程に基づきダイズ子実重を推定可能な生育・収量予測モデルの構築を目的とした。 モデル構造の概要は、葉面積成長モデルで出力可能な総節数を起点とし、1株内において莢の生長に時間的な幅を持たせることにより、すでに生長が進んでいる莢と新たに着生する莢との間に生じる光合成産物の競合を考慮して落莢の発生を推定することとした。さらに、莢の着生を各節単位でなく1株単位で管理し、各莢への乾物分配は株単位で最適化するものと仮定することにより、モデル構造の簡易化とモデル出力の安定化を目指した。 本年度は莢数の増加過程および1粒重の増加速度を定量化するために、生育速度の異なる早生と中生のダイズ品種を栽培し、莢伸長が完了した莢の数を定期的に調査するとともに、生育段階が同じ莢を抽出し、内部の子実重の変化を調べた。 莢伸長が完了した莢は子実肥大始期(R5期)の直後から増加を始め、中生品種においては、R5期の9日後には最終的に着生する莢の89%で莢伸長が完了することが明らかとなった。また、早生品種、中生品種ともに、R5期に莢伸長を完了した莢の1粒重は子実肥大始期の4日後から重量増加を開始し、成熟始期(R7期)まで継続することが示された。 以上の調査結果から、ダイズの莢の着生はR5期から10日間の間に生じ、かつR5期に近いほどその数は多く、また各莢の1粒重は莢着生の4日後から増加を開始し、かつその期間はR5~R7期マイナス4日であると仮定して、子実形成過程をモデル化した。モデルで推定された子実数および1粒重の推移は実測値と対応した結果を示しており、莢数および子実数と1粒重の積み上げによりダイズの子実重を推定可能なモデルが提示された。
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