研究課題/領域番号 |
21K14847
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北沢 優悟 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (50803160)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ファイロジェン / ファイトプラズマ |
研究実績の概要 |
本研究では、ファイトプラズマが篩部に分泌するタンパク質ファイロジェンが、花の形態を「遠隔制御」して葉化させることに着目し、ファイロジェン発現植物に様々な植物を接ぎ木することで、形質転換を行わずに様々な植物の花を葉化させることを一つの目標としている。本年度は当該目標に向けてタバコ属植物へのファイロジェンの形質転換を行い、複数の形質転換植物を得た。今後は形質転換体の表現形を観察するとともに、野生型植物を接いだ際にそれらも葉化するかを検証予定である。 本年度はさらに、遠隔制御機構の全貌解明に向けて、ファイロジェンの機能を分子的に解析した。ファイロジェンは標的宿主因子 (MADS転写因子)を植物の持つプロテアソームを介して分解させることで、葉化を誘導することがこれまでわかっている。プロテアソームは通常、ユビキチン化されたタンパク質を標的として分解する。しかし、ファイロジェンはユビキチン化タンパク質をプロテアソームへと運ぶシャトル分子RAD23に直接結合可能であり、その結果、MADS転写因子とRAD23の相互作用を仲介することで、MADS転写因子のユビキチン非依存的分解を誘導していると考えられた。これは既知の細菌性病原因子には見られないユニークなメカニズムであると同時に、複数の酵素反応を伴うユビキチン化と異なり、ファイロジェン、MADS転写因子、RAD23の相互作用のみで葉化が誘導されると想定されることから、ファイロジェンの応用に向けて適したメカニズムであると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、 ファイロジェン形質転換タバコ属植物の作出を行い、予定通り複数の形質転換植物を得ることに成功した。これらの植物でファイロジェンが発現することを、ウェスタンブロッティングにより確認した。さらに、遠隔制御機構の全貌解明に向けて、ファイロジェンの機能を分子的に解析した。ファイロジェンと標的であるMADS転写因子、およびプロテアソーム関連シャトル分子RAD23の相互作用を共免疫沈降法により解析したところ、ファイロジェンがMADS転写因子とRAD23との相互作用を仲介することで、三者からなる複合体が形成されることが明らかとなった。加えて、本複合体の形成はユビキチン非依存的であること、ファイロジェンとの相互作用を介してMADS転写因子がプロテアソームとも相互作用することが確かめられ、MADS転写因子はファイロジェンによってユビキチン非依存的なプロテアソーム分解を誘導されると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
概ね想定通り研究が進行しているため、予定通り進化分子工学的な手法によりファイロジェンの標的認識部位を解析・改変することを目指す。まず標的認識部位の解析に向けて、ファイロジェンにランダム変異を導入しMADS転写因子との結合に影響を及ぼす部位の絞り込みを行う予定である。また、花芽の遠隔制御機構の全貌解明に向けて、ファイロジェンを篩部特異的に発現するシロイヌナズナの変異体を現在作出中であり、これを用いて表現系の観察とファイロジェンの局在観察を行い、ファイロジェンの植物内動態を詳細に明らかとすることを目指す。またファイロジェン形質転換タバコ属植物の表現系を観察し、葉化を確認次第、これに植物を接いで同様に葉化が生じることを確認する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
その他費用として計上した分について研究器具の修繕等に使用したが、現時点では想定よりも修繕が不必要だったため、次年度に使用したい。引き続き器具の修繕の必要が出た際には本年度余剰分もそれに充てる予定である。
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