本研究では、植物病原細菌ファイトプラズマが篩部に分泌するタンパク質ファイロジェンが、花の形態を「遠隔制御」する機構を解析するとともに、ファイロジェンの標的認識部位を解明・改変し、花形態の自在な制御を可能とすることを目指す。 本年度はタバコ属植物と複数種の植物との異種接木に成功し、ファイロジェンを用いた花形態制御技術確立の基盤が得られた。さらに、ファイロジェンの遠隔制御機構の詳細な解明に向け、標的を含む複数の宿主因子との相互作用様式の解析を行った。ファイロジェンは、標的タンパク質MADS転写因子(MTF)に結合したのち、タンパク質をプロテアソームへと運ぶシャトル因子RAD23とも結合し、MADS転写因子の分解を引き起こす。これまでの研究では、ファイロジェンのMADS転写因子への結合性と分解活性が相関するため、ファイロジェンが結合したMADS転写因子は全て分解されてしまうと考えられていたが、特定のファイロジェンとMADS転写因子の組み合わせの場合、両者の結合は保持される一方、その後のRAD23との結合が認められず、結果MADS転写因子の分解の程度が著しく低下する現象が観察された。このことから、ファイロジェンが分解標的とするMADS転写因子の選択性は、従来考えられてきた「ファイロジェンとMADS転写因子の結合性」に加えて、「両者が結合した後のシャトル因子との結合性」という2段階で制御されていることが示され、ファイロジェンを用いた花形態制御技術の確立に向け、重要な知見を得ることに成功した。
|