植物は病原菌を認識すると「植物サイトカイン」と呼ばれる内因性ホルモン様ペプチドを分泌して免疫応答を調節する。本研究では、申請者らがイネにおいて新規に同定した植物サイトカインRALF7に着目し、その免疫機構を明らかにすることを目的としている。 最終年度である令和5年度は、イネの植物体を用いた試験により、RALF7ペプチドの植物免疫への関与を再検討した。前回までに、RALF7欠損イネはいもち病菌に対して罹病性を示すことを明らかにし、RALF7ペプチドが免疫を正に制御する因子であると結論付けていた。しかし今回、供試するいもち病菌の菌株数を増やし、無傷接種および有傷接種試験を行った結果、RALF7欠損イネはむしろ抵抗性を示す場合が大半であることが判明した。このことは、イネにおいてRALF7ペプチドは感受性因子である事を示唆する。一方で、イネのリーフディスクを用いてRALF7ペプチドを処理すると、キチン誘導性のROS産生が増強され、RALF7欠損体においてはキチン誘導性のROS産生が低下していた。以上より、RALF7ペプチドは少なくともイネのキチン誘導性免疫を強化する一方で、いもち病菌の感染に対しては逆に感受性因子として働く可能性が考えられた。この結果は、いもち病菌がRALFペプチドを「病原性を高める因子」として利用している可能性を示唆する。今後は、いもち病菌に対してRALF7ペプチドを直接処理する事により、RALF7ペプチドがいもち病菌に及ぼす作用を調査する。
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