研究実績の概要 |
蚊の吸血行動は病原体媒介の根源であり、分子基盤の理解が求められる。他の多くの生命現象と同様に、吸血行動には正負両方向の制御があると考えられる。正方向の制御として、蚊の吸血促進物質のATPが知られているが、受容機構の実体は未解明である。また、吸血停止時に血液/ATP受容機構が負に制御される機構は未知である。本課題では、正負の制御機構の分子基盤解明を目指した。 今年度は、負の制御機構に関しては、昨年度までに吸血抑制効果を見出した宿主血清成分に焦点を当て研究を進めた。吸血後の蚊体内における血清成分の絶対定量を、同位体ラベルした標準物質を用いたLC/MS/MS解析で進め、吸血直後の蚊体内には数百fmolのこの成分が存在することを明らかにした。また、昨年の解析でこの成分は吸血24時間後には蚊の体内からクリアランスされていることを明らかにしていたため、今年度は吸血直後の経時的な測定を遂行した。吸血10,20,30分後に量はそれほど変化しなかったため、吸血直後から30分以上はこの血清成分が蚊の中腸に残り機能していることが予想される。加えて、この成分を血液から遊離させる薬剤を用いた際に、 27-225倍の血清成分の上昇が起きていることをLC/MS/MS解析で確認し、さらにこの時に吸血抑制が起きていることを見出した。血清成分の量と吸血抑制の度合には相関傾向がある。 正の制御機構に関しては、糖を受容する味覚受容体(Gr)群の欠損変異ネッタイシマカの表現型解析を進めることで、ATP受容に関わる糖味覚受容体はGr4とGr5がメインであることを確認した。この2つの味覚受容体がATP受容に十分であるかを検討するために、ネッタイシマカGrを発現するショウジョウバエ系統を作出しているところである。今後、ショウジョウバエを活用することで、十分性を検討する予定である。
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