食糧生産等に不可欠な送粉サービスを提供する野生ハナバチ等訪花昆虫類の一部の病原体は、訪花昆虫類が採餌する花の上で伝搬する可能性がある。本研究は、訪花昆虫群集内における感染症の伝搬メカニズム解明や、感染症の蔓延防止に資することを目的に、①野外の訪花昆虫類の体表と訪花植物の花上の微生物叢を解明し、②ミツバチ巣内における病原体の感染拡大メカニズムの一部を解明した。①では、大量開花するセイタカアワダチソウとゴーヤを用い、訪花昆虫類の体表の真菌と花上の真菌に多数の共通種があり、訪花昆虫の分類群間でも多くの微生物が共有されていることを明らかにした。セイタカアワダチソウの訪花昆虫類の体表真菌群集のネットワーク解析からは、訪花昆虫の中で、微生物の伝搬に関し、明らかにハブとなる昆虫分類群は検出されなかったが、c-zプロットから、社会性のセイヨウミツバチは他分類群と比較してネットワークのハブとしての機能に近い性質を持っていることが分かった。②では、セイヨウミツバチの羽化成虫に対する病原性微胞子虫の接種試験を行った。微胞子虫は排泄物中を介し経口で水平伝搬し、野生ハナバチ類への感染も知られる。排泄物中の微胞子虫の胞子数は、栄養摂取により増加し、栄養摂取は感染個体の寿命を延ばした。良好な栄養条件により延命した感染個体が長期排泄することで、巣内の感染が拡大し、巣外の訪花昆虫群集への感染拡大に寄与する可能性が示唆された。総合して、訪花昆虫類の病原微生物は花上で水平伝搬する可能性が支持され、セイヨウミツバチがそのハブとなる可能性については、今後さらなる研究が必要であることが示された。
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