本研究は、都市部に生育するカンヒザクラ系統の適切な植栽管理を目指し、温度および水分条件に関する知見を得ることを目的として実施した。本年度は最終年度であり、新たに別の酵素法キットを用いることで、葉の可用性糖分の相対値を年間で検出することが可能となり、季節による体内糖分の変化を検証することができた。また、個体の健全度を定量的に評価するため、樹体内の腐朽ないし空洞の測定の有効性も検証した。 本研究の結果、カンヒザクラの葉の糖分は春に高く、夏から秋にかけて緩やかに上昇することが確認された。一方で、夏季に猛暑と極端な少雨が記録された本年度は、9月以降に糖分の減少が観察され、前年度までの結果とは異なる結果となった。このことから、カンヒザクラの樹体内糖分変動には季節的な共通性と、気温や降水が影響する可能性が示唆された。一般的に樹木は休眠前に糖分濃度を上げて耐凍性を高めるとされており、この傾向がカンヒザクラにも見られたことから、一定の耐寒性があることが示唆された。 冠水耐性の確認では、2021年度の圃場生育実験でカンヒザクラが滞水状態になると著しく衰弱することが確認された。また、前年度、対照種の植栽個体において、衰退度と土壌物理性の相関が示された。本年度の都市部のカンヒザクラ系統植栽個体の現地調査でも、土壌の気相率と衰退度に負の相関、液相率と衰退度に正の相関が認められ、さらに土壌表面硬度と衰退度にも正の相関があった。このことから、根系付近の土壌状態がカンヒザクラ系統の生育に影響することが考えられる。 2023年度の記録的猛暑の影響を受け、計画変更により未実施となった夏季の冠水下での生育実験及び糖分分析、年間での増殖実験については、補助事業期間以降に追試を行い、引き続き検証を進める。
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