近年、ツキノワグマにとって好適な環境(豊富な餌や隠れ場所がある環境)が集落内に増えており、それらを利用するクマと人間の軋轢が多発している。集落やその近辺でクマがどのように人間を回避し行動しているか、あるいは回避していないかについての詳細な知見は、ツキノワグマと人間との軋轢を緩和するうえで重要である。 本研究では、夏季に集落を利用するツキノワグマの活動場所と休息場所の特徴、およびそれらを利用する時間帯を調べることで、クマの集落利用形態の詳細を明らかにすることを目的としている。本年度は、山中で主に活動する個体の活動場所や休息場所の調査を行い、集落と山中での比較を行った。その結果、集落近辺を利用せず、主に山中で活動する個体は季節によって利用する休息場所を変化させていた。具体的には、山菜採りなど山中での人間活動が活発な春や秋には、人間の影響を避けてカバーが濃い場所を休息場所として利用していた。一方で、夏ではそれほどカバーが濃い場所を利用していなかった。また、これらの結果に性別による違いは見られなかったことも明らかにした。これらの成果は国際誌に出版されている。また、山中で主に活動している個体は春と秋には人間の影響を受けてカバーが濃い地点で休息しているものの、活動時間には変化は見られず、昼行性の行動様式を示した。これらのことから、集落近辺で活動するツキノワグマは、人間の影響を受けて時間とともに活動場所も変化させていることが示唆された。 現在は、これまでのデータを用い、より統合的な解析を行い、集落近辺で活動するツキノワグマの局所的な生息地選択に取り組んでいる。これらの情報をもとに、ツキノワグマの人間との軋轢を緩和するためのより実用的な方策の考案を進めている。
|