研究実績の概要 |
昨年度と同様の手法で、エゾシカの採餌試験を追加実施した。合計5回(2022年2回、2022年3回)の結果から、液果樹木の種子破壊率および消化管通過時間を推定した。その結果、健全種子の回収率は、植物やシカ個体により異なったが最大でも半分程度であった(ヤマブドウ1.5-55.0%、サルナシ0.8-29.4%、ハマナス0.0-6.8%)。消化管通過時間は、ヤマブドウ23-121時間、サルナシ23-145時間、ハマナス23-101時間であった。破壊されずに排出された種子は、現在発芽試験を実施中である。さらに、既存の野外個体のGPS追跡データを利用することで、種子散布距離の推定を行った。GPS追跡データは、北海道白糠丘陵で捕獲した16頭の9-12月に関するものを利用した。GPS追跡個体の行動パターンは、個体や季節により大きく異なることが確認された。そのため、個体ごとに定住期と越冬地への移動期にデータを分けて解析を行った。定住期の種子散布距離は、ヤマブドウで平均573 m、最大8,670 m、サルナシで平均614 m、最大9,834 mであった。一方で、越冬地への移動期の散布距離は顕著に長く、ヤマブドウで平均2,915 m、最大18,496 m、サルナシ平均3,770 m、最大18,341 mであった。以上より、エゾシカは、多くの種子を消化過程で破壊してしまうが、長距離散布者として貢献していると考えられた。これらの研究成果について、日本生態学会にて口頭発表を行った。 また、ヒグマの種子散布機能については、昨年度までに実施した採餌試験や発芽試験の成果を取りまとめ、論文として公表した。
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