研究実績の概要 |
本研究の目的は、「イオン液体」を溶媒かつ触媒として用いることで、低置換度の多糖誘導体の合成と繊維加工を一挙に実現する「化学修飾・湿式紡糸一貫プロセス」の構築と、多糖誘導体の構造と繊維物性の相関解明である。 R3年度は、イオン液体(1-エチル-3-メチルイミダゾリウム酢酸塩;EmimOAc)を用いたβ-1,3-グルカン(カードラン)とα-1,3-グルカンの湿式紡糸を行った。カードランは、水を凝固浴とすることで、三重らせん状の水和結晶構造をもち、伸び性に優れる繊維を得た。一方、α-1,3-グルカンはEmimOAcを溶媒とした湿式紡糸では脆弱な繊維しか得られなかったが、紡糸溶媒にLiCl/DMAcを、凝固浴にエタノールを用いることで、無水結晶構造をもち、セルロース再生繊維(レーヨン)に匹敵する強靭な繊維が得られることを明らかにした。 R4年度は、EmimOAc中でカードランを置換度0.1~1.5になるようアセチル化し、その反応溶液を直接湿式紡糸に供する「化学修飾・湿式紡糸一貫プロセス」に成功した。本プロセスにより、従来、難溶性であり、熱成形も困難だった「低置換度の多糖誘導体」の繊維加工を実現した。アセチル置換度と結晶構造の変化、力学強度や湿潤特性などの諸物性を明らかにすることで、目的としていた多糖誘導体の構造と繊維物性の相関を概ね解明した。 多糖誘導体の置換度と生分解性の相関については、同研究室(東京大学・高分子材料学研究室)にてβ-1,3-グルカン(パラミロン)のアセチル誘導体の酵素分解試験が行われ、置換度1.5以下の誘導体が生分解性を維持する可能性を示した(J. Seok et al. Polym. Degrad. Stabl. 2022)。 R5年度は、カードラン再生繊維の湿潤時の伸び性を活用した「水中二次延伸法」を確立し、引張強度を従来の2倍以上に高めることに成功した。
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