研究課題/領域番号 |
21K14888
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
山内 恒生 岐阜大学, 応用生物科学部, 准教授 (10805427)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | quercetin / 抽出成分 / 遊走阻害 |
研究実績の概要 |
クェルセチンは樹木や薬用植物,食品に広く含まれている代表的なフラボノイドの一種であり,多くの生物活性が報告されている。これまでにクェルセチンのメチル化体(MQ)が,クェルセチンよりも癌細胞の転移に関与する遊走を強力に阻害することが明らかとなっている。その作用機序の解明のため,MQの標的タンパク質の単離に用いるMQプローブの合成に成功している。本研究では本合成プローブを用いてMQの標的タンパク質を単離同定し,MQの作用メカニズムを分子レベルで明らかにする。合成したフラボノイドプローブ5種を用いてプルダウンアッセイを行った結果、MQの標的タンパク質4種を同定した。その内の一つであるアクチンの重合は癌細胞の遊走に関与していることから、MQのアクチン重合試験を実施した。その結果、MQはアクチン重合に影響しなかった。続いて同じく標的タンパク質候補として同定されたMMP-1に注目した。コラーゲン分解酵素であるMMP-1は癌細胞が組織を分解し、入り込む浸潤に関与している。また、癌細胞同士をつなぎとめるコラーゲンを分解し、細胞同士が離れやすくなる事で遊走にも関与している。MMP-1の活性に与える影響を調査したところ、MQが有意にMMP-1の活性を阻害し、表面プラズモン共鳴法を用いた相互作用解析でも強い結合を示した。さらにMMP-1のNMR解析により、MQがMMP-1の活性中心である金属イオン付近の複数の箇所に結合していることが推察された。これらの結果から、MQが癌細胞から分泌されるMMP-1の活性中心付近に結合することにより阻害することで、癌の遊走を抑制していると考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
合成したフラボノイドプローブを用いて、相互作用するタンパク質を複数得ることができた。また、そのうち4つのタンパク質の同定に成功した。この内、メチルクェルセチン(MQ)は癌の遊走に関与するアクチン重合に影響しなかったが、MMP-1の活性を阻害することが明らかとなった。さらにNMR法を用いることにより、MQのMMP-1への作用様式の解明にも至った。これらの結果はMQの遊走阻害機構の一端であると考えられ、本化合物の作用メカニズムを明らかにする本研究において大きな進展であるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で、フラボノイドの一種であるメチルクェルセチン(MQ)がコラーゲン分解酵素であるMMP-1を阻害することで、癌の転移に関わる遊走を阻害している可能性が示唆された。今後、他のフラボノイドを含めた類似化合物のMMP-1阻害活性を調査することにより、新たなMMP-1阻害剤のリード化合物の探索とその作用メカニズムの解明を進めることで、新規の癌転移抑制剤の探索を進めて行く予定である。
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