これまでにクェルセチンのメチル化体(MQ)が,クェルセチンよりも癌細胞の転移に関与する遊走を強力に阻害することが明らかとなっている。その作用機序の解明のため,MQの標的タンパク質の単離に用いるMQプローブの合成に成功している。本研究では本合成プローブを用いてMQの標的タンパク質を単離同定し,MQの作用メカニズムを分子レベルで明らかにする。合成したフラボノイドプローブ5種を用いてプルダウンアッセイを行った結果、MQの標的タンパク質4種を同定した。その内の一つであるアクチンの重合は癌細胞の遊走に関与していることから、MQのアクチン重合試験を実施した。その結果、MQはアクチン重合に影響しなかった。続いて同じく標的タンパク質候補として同定されたMMP-1に注目した。コラーゲン分解酵素であるMMP-1は癌細胞が組織を分解し、入り込む浸潤に関与している。また、癌細胞同士をつなぎとめるコラーゲンを分解し、細胞同士が離れやすくなる事で遊走にも関与している。MMP-1の活性に与える影響を調査したところ、MQが有意にMMP-1の活性を阻害し、表面プラズモン共鳴法を用いた相互作用解析でも強い結合を示した。さらにMMP-1のNMR解析により、MQがMMP-1の活性中心である金属イオン付近の複数の箇所に結合していることが推察された。これらの結果から、MQが癌細胞から分泌されるMMP-1の活性中心付近に結合することにより阻害することで、癌の遊走を抑制していると考察した。さらに本研究ではあらたにフラボノイドの重合体である縮合型タンニンに注目し、構造解析及び、MMP-1への阻害様式を明らかにする事に成功した。フラボノイドの4量体である縮合型タンニンはMQとは異なり、金属イオン以外の箇所に結合し凝集を生じることで、MMP-1の活性を阻害していると示唆した。
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