現在、医薬品開発における肝毒性評価において、ヒト初代培養肝細胞が主に使用されているが、入手機会に限りがあることや、ロット差が大きいため、安定した毒性評価が困難である。一方、無限に増殖が可能なiPS細胞から作製された肝細胞であれば、安定した細胞供給源となるが、薬物代謝酵素活性などの肝機能が初代培養肝細胞と比べて低いといった課題がある。そこで、林産系ナノ素材として注目されている樹木由来セルロースナノファイバーと水産資源のキチンナノファイバーの「固体糖鎖界面」と「ナノ繊維形状」を活かして、細胞間コミュニケーションの促進に着目した細胞培養基材を創出することで、iPS細胞由来肝細胞の機能を向上させることを当初の研究目的とした。 本年度では、肝細胞の生育や肝機能を支える役割を担う類洞内皮細胞のモデルとして、臍帯内皮細胞を使用し、キチンやセルロースに由来する様々なナノファイバー基材上での培養を行った。キチンナノファイバーを用いた基材では、内皮細胞の接着性が乏しく、十分な細胞増殖性がみられなかった。一方で、表面を化学修飾したセルロースナノファイバー基材では、内皮細胞の良好な接着・増殖性が確認され、肝細胞の生育を支えるための増殖因子の遺伝子を高発現する条件が見出された。さらに、増殖因子高発現条件の内皮細胞と、前年度までの取り組みで明らかになった肝機能が向上するセルロース基材上で培養した肝細胞(HepG2細胞)を組み合わせた共培養にも取り組み、肝機能の評価を行った。 研究期間全体を通して、樹木由来材料であるセルロースナノファイバーを用いた肝細胞の機能向上に適する基材と、肝細胞の働きをサポートする内皮細胞の機能向上が期待される基材の開発に成功した。
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