最終年度は、これまでの研究結果より、活性酸素から生体を守ることにつながるペルオキシダーゼ活性をもつと予想される遺伝子に着目した。しかし、遺伝子配列の相同性検索から、この遺伝子はコユビミドリイシ において多重遺伝子族を形成することがわかった。相同性の高い10遺伝子がゲノム上で近傍に存在しており、全ゲノム塩基配列の情報が正しいのかを確かめる必要性があった。そこで、分子生物学実験によりそれらの相同性の高い複数遺伝子が実際に存在するのか、ゲノムアッセンブルのエラーなのかを確かめようと試みた。コユビミドリイシのゲノムDNAを鋳型として、遺伝子領域を増幅しサンガーシークエンスにより塩基配列を決定したところ、10遺伝子の中の3遺伝子の塩基配列の相同性が非常に高く、その3遺伝子を特異的に増幅することができなかった。そのため、全ゲノム塩基配列の情報が正しいのかを明らかにすることができず、これ以上の解析は実施しないこととした。次に、mRNAの配列を次世代シークエンスで決定するRNA-sequencingのデータから、これまでの研究で絞り込んだ遺伝子の遺伝子発現量を解析した。コユビミドリイシの成体と幼生のRNA-sequencingのデータを解析したところ、どの遺伝子も、コユビミドリイシの成体と幼生で発現が確認された。遺伝子発現が確認されたことから、これらの遺伝子は機能を持っていると予想された。 本研究で得られた結果は、サンゴの生息環境の違いに低分子量熱ショックタンパク質をコードする遺伝子、活性酸素から生体を守ることにつながるペルオキシダーゼ活性をもつと予想されるタンパク質をコードする遺伝子や、高温の受容に関わることが知られているタンパク質をコードする遺伝子が関わる可能性を示唆している。ここまでの結果を論文としてまとめ国際誌に投稿する準備を進めている。
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