本研究課題に取り組む前に、舞鶴湾に400 m間隔に設置した100定点それぞれの表層・中層・底層からの環境DNA (eDNA)解析用のサンプリングを行った。調査では、多項目水質計を用いた水温、塩分等の環境項目の計測と、計量魚群探知機での魚種の反射強度も測定した。 まず、水温の水隗構造と地形的特徴から、舞鶴湾は西湾と東湾に分けられることが判明した。そのサンプルを用いて、マアジとカタクチイワシという水産重要種で舞鶴湾に優占する両種のミトコンドリアの短鎖、長鎖、核領域(ITS1)の3つのマーカーそれぞれに関して、種特異的プライマーとTaqManプローブ法を用いたリアルタイム定量PCRを行った。 その結果、マアジの短鎖eDNA濃度は、西湾では表層、東湾では底層が高く、カタクチイワシでは、全湾において表層が多かった。これらの特徴的な鉛直分布は、魚群探知機で推定される両種のそれとよく一致した。さらに、市場からの排水由来と考えられる両種のeDNAの大量放出のノイズが影響する西湾を除いた東湾のみのデータとを比較すると魚群探知機と正の相関を示した。一方で、カタクチイワシでは全湾において相関を示さなかった。 マアジの水平方向でeDNA濃度と魚探が相関した理由は、6月の時期は、魚群探知機で検出した稚魚サイズが湾内に優占する一方、カタクチイワシは、多回産卵のため魚群探知機で検出することができない、生まれて間もない仔魚も湾内に優占したためと考えられる。 次に、両種の長鎖eDNA濃度を調べた結果、短鎖よりもeDNA濃度は低く検出され、また、カタクチイワシでは東湾では、底層の方が高い傾向が示された。核DNA濃度は、平均して短鎖の100倍近く高いことが判明した。このことから、eDNAを検出する際の対象のDNAマーカーの違いによって、分布や濃度の違いが全く異なることが示された。
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