昨今、養殖場では様々な魚病が頻発し、養殖魚の生産効率や商品価値を著しく低下させている。魚病被害抑制のためには、密な検査により魚病発生を早期に探知し、発生拡大の前に封じ込め・治療を行うことが不可欠であるが、現行の検査方法は取り上げや解剖による魚体へのダメージから養殖業者に敬遠されている。そこで本研究では環境水をサンプルとした、魚体の取り上げを必要としない非侵襲的な魚病検査手法を確立することを目的とした。 マダイに対する魚病細菌Edwardsiella anguillarumの感染試験を行い、飼育水中のマダイ由来RNA(環境RNA)の網羅的検出を行ったところ、複数の環境RNAが非感染魚飼育水に比べ有意に増加していた。また、これらのうち3つの環境RNAを選定し定量PCR法による定量検出系を確立し、飼育水中の当該RNAの発現動態を調べたところ、対象としたいずれの環境RNAも感染魚飼育水中で非感染魚飼育水に比べ数十~数百倍高く発現しており、またRNAの種類により発現パターンが異なっていた。そこで再度マダイに対するE.anguillarumの感染試験を行い、同様の解析を行ったこところ、確立した3つのRNAはいずれも前回試験と同様の発現動態を示し、再現性が確認された。さらに、これら環境RNAの養殖海域からの検出にも成功したことから、環境RNAは病原体の感染を探知できる非侵襲性マーカーとして魚病検査に応用できる可能性が示された。 また、感染した病原体の種類による環境RNA発現の差を検証するため、マダイイリドウイルス症ウイルスをマダイに感染させ、飼育水中の環境RNAを網羅的に検出した。その結果、E.anguillarum感染時とは異なる環境RNAが優占して検出され、発現する環境RNA組成から感染した病原体種を推定できる可能性が示唆された。
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