研究課題/領域番号 |
21K14904
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研究機関 | 静岡理工科大学 |
研究代表者 |
鎌田 昂 静岡理工科大学, 理工学部, 准教授 (40815859)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 紅藻 / ソゾ / 軟体サンゴ / 二次代謝産物 / 含ハロゲン化合物 / テルペン / 付着阻害 / 抗寄生虫 |
研究実績の概要 |
水産養殖場で使用される網類を海中に長く浸漬していると、汚損生物が付着する。その結果、潮通しが妨げられ、真菌や寄生虫が大量に発生する。この対策として、農薬系化合物を含む防汚剤が使用されてきたが、環境毒性が問題視されている。ところで、藻類や軟体動物など一部の海洋生物は種に応じ、特異的な生物活性を示す二次代謝産物(化合物)を生産する。中でも、紅藻は、ハロゲン原子を有する低分子有機化合物を蓄積することで、外敵から身を守る化学防御機構を備えている。本研究では、この防御機構に着目し、『紅藻由来の含ハロゲン化合物は、防汚性を備えた環境対応型の養殖網となり得るか』という問いに対し、次の二点を解決することを目的に研究を展開している。(1)紅藻類から、汚損生物へ阻害活性を示す新しい候補化合物を見出すこと(2)候補化合物をハイドロゲル高分子材に混ぜて、海洋環境にやさしい防汚網の試作品を開発すること 一年目は、上記(1)を目標に、探索源となる海洋生物から様々な生物活性物質を取得し、化学構造を明らかにしてきた。より具体的には、紅藻マギレソゾおよびウラソゾから総計3種の新規含ハロゲン化合物を単離・構造決定した。これらの化合物には顕著な抗菌・忌避活性が認められた。他方、沖縄県産の軟体サンゴから新規骨格を有するジテルペンを発見した。また、別種の沖縄県産軟体サンゴから遺伝毒性を示す新規ジテルペンを見出した。一連の知見は、3報の国際学術論文で公表した。現在、微生物・付着生物などを扱った詳細な生物活性評価(付着阻害・抗寄生虫)を行うことで、応用開発の種となる候補化合物の発見に向けた取り組みを継続している。今後、さらなる探索研究を行う。そして、(2)の目標を達成するために、取得した候補化合物とハイドロゲル高分子材とを融合させた新規防汚剤の創出を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目は、環境対応型の防汚網開発へ繋がる候補化合物を海産の紅藻と軟体動物に求め、下記の研究項目(①~③)を行う予定であった。①:紅藻を主とした海洋生物の採集、②:抽出物を用いた汚損生物阻害評価試験のスクリーニング、③:化合物の分離と精製 そして、二年目から、④:新規候補化合物の構造解析・活性評価・構造活性相関の解析に取り掛かる予定であった。 当該年度は、コロナ禍ということで当初予定していたよりも一部の野外調査と採集活動が進まなかった。しかし、想定通り、過去に採集していた研究室保有の抽出物ライブラリーと化合物バンクを活用することで、予定より早く研究項目④に取り掛かり始めている。 得られた研究成果の一部を具体的に示す。千葉県/静岡県産のマギレソゾから新規C15アセトゲニンを1種、そしてウラソゾから新規C15アセトゲニンと新規セスキテルペンを発見した。この他に、30種を超す既知含ハロゲン化合物を単離・構造決定し、生物活性評価を行っている。今後、研究課題を解決する新しい作用機序を示す付着阻害剤や抗寄生虫薬が得られる可能性がある。従って、二年目も引き続き、候補化合物の探索と構造解析を主軸に据えて実験を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
紅藻類由来のサンプルは、従来の調査地である静岡県の他、研究協力者から提供されたこれまでに扱ったことのない未調査区域(秋田県・和歌山県・広島県など)のものにも着手する。そして、新規の生物活性化合物が含まれている可能性が高い抽出物を選択し、分離と精製を進める。海洋無脊椎動物のサンプルは、特に沖縄県の浅海に生息するアメフラシや軟体サンゴ類由来のものを中心に扱う。 既存の化合物よりも強い活性を示す発展型防汚剤ならびに既存の化合物と異なる化学構造を有する新しいタイプの防汚剤の取得に向けて、二年目も探索・スクリーニングを継続して行う。また、取得した候補化合物は、防汚剤としての安定性や溶解性などを調べるとともに、大型水槽を用いて阻害効果を評価する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍であったため、採集補助員および実験補助員を動員した研究活動を十分に行えなかった。そのため。謝金の支出予定分が余った。
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