研究課題/領域番号 |
21K14908
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研究機関 | 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 |
研究代表者 |
越野 陽介 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 水産研究本部 さけます・内水面水産試験場, 主査 (20747092)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | サケ / ふ化放流事業 / 環境エンリッチメント |
研究実績の概要 |
現在,北日本ではサケ資源の減少が続いている。その要因の一つとして,ふ化放流事業を長い間続けてきたことにより,ふ化場魚が自然環境下での生存に不利な形質や特性を持つようになった可能性が指摘されている。近年,飼育環境を改良すること(環境エンリッチメント; 以下,EE)で,魚類の成長や発達が向上することが分かってきた。サケにおいても,飼育環境を本来の自然環境に近づけることでその特性を野生魚に近づけ,種苗としての質を高めることができるかもしれない。そこで3年目は,①実際のさけます増殖現場でも取り入れやすく効果が出やすい構造物の設置試験,②さけます増殖現場での飼育試験,③EEが放流後のサケ稚魚にもたらす影響を明らかにすることを目的とした試験を実施した。 ① さけます内水試の道東センターにおいて、サケ稚魚の隠れ家となる円形の板と飼育池内の構造を複雑にするための筒状の網を設置したEE群は、対照群(池内になにも設置しない従来の飼育環境)よりも成長が高まった。 ② 上記の同様の構造物を規模が大きい増殖現場の飼育池に設置した場合でも、EE群は対照群よりも成長が高まることが明らかとなった。 ③ ①で飼育したサケ稚魚の行動実験(水槽内に捕食者を投入してストレスを与える)を行ったところ、EE群のほうが隠れ家に隠れる割合が高く、給餌を再開しても餌付くまでに対照群の倍の時間を要した。さらに①で飼育したサケ稚魚を網走漁港内に設置した海中生け簀で約2週間飼育したところ、EE群のほうが対照群と比較して、成長及び胃内容物指数が高くなった。このことは、淡水飼育中に行ったEEの効果が降海後にまで継続する可能性を示している。以上の結果から、飼育中のEEの効果はサケ稚魚の放流後の生残にまで影響する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本来は研究代表者の勤務先にある飼育池のみを使って実験を行う予定であったが,さけます増殖現場からの提案により,よりサイズの大きい実際の増殖現場も研究場所として使えることになり,急遽新たな飼育実験も並行して行っているため、少し進捗は遅れている。ただ,増殖現場への実装を考慮すると、当初よりも研究内容としては発展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きさけますの増殖現場に取り入れやすく管理しやすい構造物の設置の検討を行い,それによりサケ稚魚の成長や行動、脳の発達に影響するのか評価を引き続き行う。特に、飼育期間中の構造物の設置が放流後のサケ稚魚の生残率向上につながるような効果がみられるのかを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
飼育実験で十分な標本数を得られなかったため、その消耗品や出張にかかる費用を次年度に使用するために繰り越しが生じた。次年度の実験時期には予定通りに消化できる見込みとなっている。
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