研究実績の概要 |
周りを海に囲まれた日本では, 多様な水産資源を食品や加工品として利用しているが, それでも利用されていない水産資源もまだ多く存在する。暖流と寒流の双方の影響を受ける日本沿岸の岩礁域には多様な海藻が生息しているため, その資源量は豊富であるが, 食用種はわずかであり, 代表的な未利用水産資源である。本研究で対象とした未利用紅藻,ダルス (Palmaria palmata)の資源量は,函館市臼尻近郊だけでも,年間数千トンに到達すると推定されている。しかし,コンブ養殖の種苗ロープに繁茂して日光を遮断するため,そのほとんどが除去・廃棄されている。先行研究では,凍結乾燥ダルスに含まれる複数種の抗炎症成分であるフィコビリタンパク質由来ペプチド (PP) とクロロフィルa関連化合物 (Chls)の有効性の可能性が示唆された。 2021年度には,海藻の代表的な加工処理法である熱風乾燥を用いて,ダルスを熱風乾燥により減容化した藻体から,三つの有効成分(糖画分とPP画分,Chls画分)の分画抽出する方法を検討した。さらに,ダルス由来の有効成分が生活習慣病の発症・増悪に深く関与しているマクロファージの免疫応答におよぼす影響を調べた。その結果,未利用水産資源である紅藻ダルスから抽出したPP画分とChls画分が抗炎症効果を持ち,また両画分の作用メカニズムが異なることを明らかにした。まず(1)PP画分は免疫細胞を活性化させ,炎症の早期収束に寄与することで炎症を抑制する。次に(2)Chls画分はLPS受容体をはじめとする異物認識機能を調節することで,炎症を抑制する。このような研究成果はダルス由来のPP画分とChls画分が炎症抑制の機能性食品素材としての利用可能性が高いことを示唆する。
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