研究課題/領域番号 |
21K14913
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
美野 さやか 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (00755663)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 深海底熱水活動域 / 生物地理 / 化学合成独立栄養細菌 / 微生物生態学 |
研究実績の概要 |
世界各地の深海底熱水孔環境には微生物の一次生産に立脚した独自の生態系が形成される。これまでの多遺伝子座配列解析(MLSA)法を用いた研究から、現場のコスモポリタン微生物であるSulfurimonas属細菌は、海域特有の遺伝的多様性を有することが明らかとなった。しかしながら、 MLSAではゲノム全体の多様性はもとより、遺伝的多様性が微生物の表現型へ与える影響を明らかにするには程遠い。また、現在の分布様式が成立した過程を理解するに至っていない。本研究の目的は、培養依存および培養非依存的手法を組み合わせ、熱水孔環境への適応進化を明らかにするとともに、熱水孔コスモポリタン微生物の分布形成過程を理解することにある。令和3年度は、これまでに研究代表者等が取得した、沖縄トラフ熱水活動域由来Sulfurimonas属に属する分離株から代表株を選別し、Nanoporeシーケンスを活用した完全ゲノムの取得により、ゲノムワイドな変異解析に必要な知見の収集を進め、以下の結果を得た。 ・中部沖縄トラフ熱水孔環境から分離したSulfurimonas autotrophicaのうち、代表株22株のゲノムシーケンスを実施した。このうち8株の完全ゲノムをIlluminaとNanoporeリードを用いたハイブリッドアッセンブリ法により決定した。完全ゲノムが取得できなかった株についても、completenessが96%以上のアセンブリを取得した。
・139個のsingle-copy core genes(SCGs)の塩基配列に基づく系統解析の結果、これら22株は遺伝的に二つのクレードにわけられることが明らかになった。この傾向はこれまでのMLSAによる系統解析でも認められていたものであるが、一部の分離株においてMLSAとSCGに基づく系統解析で属するクレードが異なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度中に、22株全ての完全ゲノムを取得する予定であったが、一部の分離株の増殖強度が極めて弱く、Nanoporeシーケンシングに十分なDNA 量を確保することに時間を要した。そのため、当初の計画であった、パンゲノム解析および代謝の機能遺伝子の多様性解析を実施できなかった。以上の点を鑑み、上記判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の点に焦点を当て、研究を遂行する予定である。 ①中部沖縄トラフ由来S. autotrophica細菌22株全ての完全ゲノムの取得 ②S. autotrophica細菌の比較ゲノム解析:代謝の鍵酵素の遺伝子配列解析 ③S. autotrophica細菌代表株の細胞生理および酵素活性の評価 ④公共メタゲノムデータを活用した多様な環境からのS. autotrophicaゲノム再構築および遺伝子塩基配列解析
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA試料調製に遅れが生じたことから,ゲノムシーケンシングに関わる消耗品費の一部の支出が生じなかったため。また、研究代表者の産前産後休暇・育児休業取得のため、年度途中に研究を中断し、当初予定の計画を進めることが困難であったため。助成金の繰越金は、次年度以降、今年度に実施できなかったシーケンスやその他の実験に必要な消耗品費に充当する。
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