これまでの研究代表者らの多遺伝子座配列解析(MLSA)法を用いた研究から、熱水孔環境のコスモポリタン微生物であるSulfurimonas属細菌のうち沖縄トラフを由来源とする分離株は、系統学的に種内で2つのグループに分けられることが明らかとなった。しかし MLSAではゲノム全体の多様性はもとより、遺伝的多様性が表現型へ与える影響や、現在の分布様式の成立過程を理解するには程遠い。本研究の目的は、熱水孔コスモポリタン微生物の適応進化および分布形成過程を理解することにある。令和4年度は前年に引き続き沖縄トラフ由来Sulfurimonas属に属する代表分離株のゲノム解析を進め、ゲノムワイドな変異解析に必要な知見の収集を進めた。代表株13株の完全ゲノムを取得しゲノムに基づく系統解析により、13株は2つのクレード(Clade I とClade II)に分類された。このクレードは、MLSAで示されたものと概ね一致したが、先行研究でクレードに分類されなかった分離株の系統学的位置が明確になり,完全ゲノムを用いることでクレードの定義が可能となった。またClade IとClade II、近縁種Sulfurimonas autotrophicaの基準株間のANI値は、菌種判定の閾値95%未満を示した。このことから、両クレードおよびS. autotrophicaはいずれも別種であることが示され、同所的種分化を経ていることが明らかとなった。ゲノムサイズおよびGC含量の点でもわずかに異なり、Clade IIがより大きいゲノムサイズかつ高いGC含量を示した。Clade IIにユニークな遺伝子数はClade Iのそれよりも約1.7倍高く、ゲノムサイズの結果を支持した。本研究は研究代表者の海外渡航により中断しており、再開後、各クレードに特徴的な代謝経路の探索、代謝の鍵酵素の遺伝子配列解析などを進める予定である。
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