海産白点虫の寄生期虫体は宿主細胞にアポトーシスを誘導し、それを餌として摂食することが示唆されているが、その詳細については明らかではない。そこで本研究では、白点虫の摂餌における宿主細胞へのアポトーシス誘導の役割、ならびにそのメカニズムを解明することを目的とした。 本研究で実施した感染組織の観察、TUNEL法によるアポトーシス細胞の検出、虫体内に取り込まれた宿主細胞の形態等から白点虫の宿主細胞へのアポトーシス誘導およびそれを摂食することが確認され、アポトーシスの誘導は本虫の生存戦略上重要な現象であることが改めて示唆された。また、海産白点虫の宿主細胞へのアポトーシスの誘導に関与する分子を探索するため、寄生期虫体を対象にトランスクリプトーム解析を実施したところ、寄生期虫体ではカテプシンなどのプロテアーゼをコードした遺伝子が高発現することが明らかとなった。さらに、それらプロテアーゼ遺伝子の演繹アミノ酸配列解析を行ったところ、分泌性の分子であることが推測された。これらの分子が宿主細胞へのアポトーシスの誘導に直接関与するかについては明らかではないが、本虫の寄生期に重要な分子であることが示唆された。これらの成果は海産白点虫のアポトーシス誘導メカニズムの解明の第一歩となるだけでなく、今後の白点病対策研究における薬剤のターゲット分子やワクチンの抗原候補の探索に有益な情報である。 さらに、本研究では、全ゲノムの取得や自由生活性繊毛虫テトラヒメナの膜状に任意の組換えタンパクを発現させる手法など今後の白点虫研究の基盤となる多くの知見や研究技法の開発に成功した。今後、これらの知見を基にした白点虫のアポトーシスの誘導メカニズムの解明や対策研究の進展に繋がることが期待される。
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