研究課題/領域番号 |
21K14916
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
遠藤 充 愛媛大学, 南予水産研究センター, 研究員 (20897714)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人工授精 / 卵保存 |
研究実績の概要 |
本研究の目的であるスマ半数体の誘起にあたり、受精前の配偶子(卵や精子)への処理が必要になる。そのため採取した配偶子を、受精能を維持して保存する技術が不可欠である。本年度は海面生け簀で自然産卵している個体から採取した配偶子を経時的に人工授精に供し、排卵卵の保存条件を詳細に検討した。 排卵卵の保存溶液の検討では、生理的塩類緩衝溶液であるHanks' solution(Hanks')、細胞培養に用いられるLeibovitz's L-15 medium(L-15)、海産魚用リンゲル液(Ringer's)の3種類を用いた。これらの溶液中で排卵卵を保存し、12時間後まで経時的に人工授精を行い、受精率、孵化率、正常仔魚率を調査した。保存3時間後までは、Hanks'及びRinger's保存群において受精率は95%以上を維持し、溶液を加えずに保存した対照群と同等またはそれ以上の値だった。保存12時間後においても、3.5-12.1%程度の正常孵化個体が得られたが、保存時間に伴い胚発生成績は悪化した。また各溶液で保存した卵を観察した結果、過熟卵や壊卵の割合がRinger's保存群で早期から増加したため、Hanks'がより卵の保存に適していると考えられる。 次に保存温度の検討では、排卵卵を異なる温度(5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃)で保存し、5時間後まで経時的に人工授精を行った。20℃で保存した群では、保存5時間後も受精率、孵化率共に有意な低下はなかった。一方、5℃、10℃、30℃で保存した群では、保存3時間後の孵化率が10%以下と極めて低く、15℃及び25℃保存群の受精率及び孵化率も20℃保存群より低かった。 以上の結果から、スマの排卵卵をHanks'に浸漬して20℃で保存することにより、3時間後まで高い受精率と胚発生能力を維持できることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はスマ半数体誘起条件の検討に向けて、計画的に人工授精方法を確立し、排卵卵の体外での保存条件を詳細に検討することができたため、おおむね順調に進展していると考えている。 これまでスマにおいて人工授精に関する先行研究はなく、同じマグロ類のクロマグロの人工授精においても成功率は極めて低いと報告されている。本年度は当研究室として、スマの自然産卵における排卵時刻の推定により、排卵卵を得て人工授精を行う方法を確立した。本研究課題では、さらに採取した排卵卵の利用可能時間を延長するため、生理的塩類緩衝溶液であるHanks' solution(Hanks')、細胞培養に用いられるLeibovitz’s L-15 medium、海産魚用リンゲル液の異なる溶液で排卵卵を保存し、保存後の受精率、孵化率、正常仔魚率を調査した。保存溶液を使用せず、排卵卵を取り囲む卵巣腔液だけでも受精能は維持されたが、3時間までの保存の場合、Hanks’に浸漬することでより高い受精率と胚発生能力が得られることが明らかとなった。今後、卵への紫外線照射により雄性発生半数体を作出する際には、均一に紫外線を照射するため、卵を何らかの溶液へ浸漬することが必要となる。従って採取した排卵卵に紫外線照射を行う間、Hanks'に浸漬しても受精能を失わないことを確認できたことは、次年度以降に予定している紫外線照射条件の検討の実施に繋がる成果である。同様に、精子への紫外線照射により雌性発生半数体を作出する際には、精子の運動活性を維持できる溶液で精液を希釈する必要がある。人工授精にHanks'で希釈した精子を使用した場合も、高い受精率が得られたことから、次年度に行う雌性発生のための紫外線照射量の検討も予定通り実施できる。 以上のように、本年度はスマ人工授精の基盤技術を構築できたことから、おおむね順調に本研究課題が進捗しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究成果として、スマにおいて受精能力を維持した状態で排卵卵や精子を計画的に得る技術を確立し、それらの排卵卵および精子を保存することが可能になった。すなわち、スマから採取した排卵卵や精子に対して、半数体誘起のための紫外線照射などの処理を行うための技術を整備できた。 今後、2022年度以降は、スマの排卵卵の最適な保存条件として確立したHanks' solutionに浸漬して20℃で保存する方法で排卵卵を保存しながら、排卵卵へ異なる照射量の紫外線を照射し、雄性発生半数体の誘起に最適な紫外線照射量を検討する。同様に、希釈した精子に異なる照射量の紫外線を照射し、雌性発生のための精子核の遺伝的不活性化に最適な紫外線照射量を検討する。また雄性発生の誘起では、受精直後の卵への低温処理も有効であるとの報告があるため、スマ受精卵へに対する低温処理の暴露時間、処理温度についての検討を行う。雄性発生及び雌性発生半数体誘起の条件検討は、各誘起条件下での胚発生能力の調査と倍数性解析により行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度投稿した論文の論文掲載料として予算を確保していたが、本年度内の論文受理、掲載に至らなかったため、次年度使用額が生じた。
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