研究課題/領域番号 |
21K14916
|
研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
遠藤 充 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(南勢), 研究員 (20897714)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 雌性発生 / 雄性発生 / 染色体操作 |
研究実績の概要 |
今年度は、雄性発生半数体誘起のための卵核の不活性化と、雌性発生半数体誘起のための精子核の不活性化に適した紫外線照射量の検討を目的とした。照射量の異なる実験区を設定し、各実験区について受精率、受精18時間後の体節形成期および受精36時間後の孵化期における生残率、孵化率、奇形仔魚率を調査し、紫外線照射による胚発生能力への影響を調べた。孵化期まで生残した胚は、セルアナライザーを用いた倍数性解析に供し、各実験区の半数体誘起効率を調べた。 各実験区の胚発生成績については、雌性発生では照射量の増加に伴い受精率が低下し、雄性発生では生残率が低下する傾向が見られた。半数体の作出条件については、雌性発生における精子への紫外線照射では、試みた全ての照射量で半数体が高効率に得られた。しかし精子に一定量以上の照射を行った実験群では受精率が低下したため、照射が過剰と考えられた。また雄性発生における卵への紫外線照射では、孵化期まで胚が生残し、半数体が高効率に得られる照射量を明らかにした。しかし卵に一定量以上の照射を行った実験群では、受精胚が得られたもののその後の生残率が極めて低かった。なお具体的な紫外線照射量は、論文執筆中のため記述を控えた。雄性発生処理における卵への紫外線照射は、卵を水平方向に振盪しながら行うため、卵同士の接触による物理的ダメージも考えられたが、振盪が受精率などの胚発生成績に悪影響を及ぼさないことを合わせて確認した。また、雄性発生については、紫外線照射を用いない方法として知られる低温処理を試みたが、受精胚が得られなかった。今年度は低温雄性発生の条件決定には至らなかったが、低温雄性発生法は受精後の卵に対する処理法であるため、人工授精が容易ではないスマに対しては、今後も検討していく必要があると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度までの研究実施計画として、スマから採取した配偶子(卵や精子)を、受精能を維持したまま保存する条件を検討すること(2021年度)、スマの半数体を誘起するための紫外線照射条件を決定すること(2022年度)としていた。2021年度に配偶子の保存条件を明らかにし、その成果を2022年度に論文として発表した。また、半数体誘起条件について、紫外線照射を用いた雌性発生および雄性発生半数体の両方の誘起条件を明らかにした。以上のように、現在まで計画通りにスマの半数体誘起を成功させたことから、おおむね順調に研究課題が進捗しているとした。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度の研究成果として、スマにおいて雌性発生および雄性発生半数体を誘起するための条件を決定することができた。一方で、同一の親魚から得た卵と精子を使用したにも関わらず、半数体が高効率に誘起できた雌性発生群と雄性発生群の間には胚発生成績に差が見られた。 2023年度は、半数体や半数性細胞の利用に向け、半数体の生物学的特性の解析を行う。周年採卵が可能なゼブラフィッシュをモデルとして、胚発生過程において生じる雌性発生半数体と雄性発生半数体の違いを評価する。胚発生を司るゲノムの違い(母親由来か父親由来か)、あるいは半数体誘起のための紫外線照射の有無が、半数体の胚発生に与える影響を解析していくことで、半数体利用に向けた基盤情報を集積する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度までの研究成果を関連学会で発表するための費用を計上していたが、新型コロナウイルス感染の拡大が続いたため、学会出席を次年度以降に先送りにした。したがって、次年度使用額が生じた。
|