本研究は,水田土壌細菌叢が肥培管理よりも土壌タイプ(型)間で大きく異なるという現象に着想を得て,マイクロコズム実験にて,土壌の物理性・化学性・生物性の3つの観点から細菌叢の形成に支配的な因子の特定(課題1)を目指すとともに,土壌型間に見られる潜在的な細菌叢と生態学的機能についても取りまとめること(課題2)を目的とした。 課題1として,土壌中の難分解性有機物である腐植に着目し,灰色台地土およびグライ土中の腐植酸濃度を黒ボク土と同等まで上昇させたマイクロコズムを調製し,形成される細菌叢を追跡した。また,腐植と複合体を形成することで知られる活性アルミニウム量についても同様に検討した。その結果,いずれの場合にも土壌細菌叢形成に及ぼす影響は小さかった。腐植酸を含む有機物施用の効果が比較的小さいことから,土壌の物理性に注目し,これらの土壌をその粒度ごとに分画し培養することで,土壌細菌叢の分布と培養期間中の遷移を追跡した。その結果,いずれの粒度でも形成される細菌叢は各土壌型固有の菌叢を維持していたものの,粒度が小さくなるにつれて細菌叢の多様性が減少する傾向が認められた。また,グライ土のシルト・粘土画分を培養した場合に形成される細菌叢は黒ボク土の細菌叢にやや類似する傾向を示した。 課題2として,水耕栽培にて5種類の土壌型に由来するイネ根内生菌(エンドファイト)群集を解析した。その結果,土壌中の細菌叢の違いが根エンドファイト群集形成に有意な影響を与えること,エンドファイトの多様性の高さが必ずしも生育促進に繋がらないことが示唆された。このことから,根エンドファイトにはイネ生育を促進するものと促進しないもの,あるいは抑制するものが存在すると仮説を立て,黒ボク土およびグライ土を細菌叢接種源としてイネを水耕栽培し,根エンドファイトの単離を試み,19属36種を単離した。
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