研究課題/領域番号 |
21K14955
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
野村 康之 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70847722)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 集団クローン構造 / 集団遺伝構造 / 雑種形成 / 結実率 / チガヤ / ゲノム |
研究実績の概要 |
チガヤは根茎による栄養繁殖を行う多年草である。チガヤには生育地や開花期が異なるC型およびE型のほかに、これらのF1雑種が生育していることが明らかとなっている。野外では、F1雑種が蔓延する集団がある一方で、C型やE型と比べて、F1は結実率が低い。チガヤが自家不和合であり、F1でも異なるクローンで人為交配をすると高い結実率を示すことから、野外ではF1は無性生殖が卓越し、クローン多様性が2生態型よりも低いことが示唆される。 2021年度は、(i)日本全国のチガヤ341系統についてRAD-Seq法によって先行研究より多くのSNPを取得し、F1雑種よりあとの世代が存在しないかを明らかにした。これまでの結果と同様に、F1雑種だけが存在し、雑種集団はF1雑種で世代交代が止まっていることが明らかになった。さらに、E型ではC型以上に地域的遺伝的分化が顕著であることも明らかになった。これは、2生態型間の生育地の選好性の違いに由来すると考えられる。(ii)C型19集団394個体、E型23集団365個体およびF1雑種26集団505個体について、RAD-Seq法によってSNPを取得し、各個体の遺伝子型を決定した。遺伝子型情報に基づき、クローンを識別し、クローン多様性を明らかにした。解析の結果、F1雑種はC型およびE型と比べ、クローン多様性が低い傾向にあることが明らかになった。しかし、F1雑種の結実率が極めて低く、クローン多様性と結実率の間の関係性については不明瞭であった。 2022年度は、チガヤ2生態型のゲノムリファレンスの整備を行う予定である。リファレンスが整備されることで、取得できるSNP数も増加し、これまで以上に精度の高い解析を行えることが期待される。現在は、ゲノムリファレンス解読用の個体の育成、およびDNAの抽出の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゲノムリファレンスが無い状態でも、日本全国のチガヤの集団遺伝構造、および2生態型とF1雑種集団のクローン多様性を明らかにできており、当初の問いに対する答えは解明されつつある。さらに、これまでは明らかになっていなかったC型およびE型の地域的遺伝的分化の傾向の違いも明らかにできた。一方で、2021年度にゲノムリファレンスの整備を行う予定であったが、ロングリードシークエンスに堪えうる質のDNAを抽出することができず、シークエンスを行うことができなかった。また、新型コロナウイルスの流行による外出自粛のため、新規に発見したF1雑種集団の野外調査を行うことはできなかった。以上を考慮し、2021年度の計画は、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の中心的な目標は、チガヤ2生態型のゲノムリファレンスの整備である。これまで、ロングリードシークエンスによる解析を目指していたが、従来推奨されていた方法では、ロングリードシークエンスに堪えうるDNAを抽出できなかった。そこで、ロングリードではなく、ショートリードシークエンスをアッセンブルしてゲノムリファレンスを整備する方針で、解析を進めていく予定である。完全な染色体構造まで復元せずとも、ゲノムリファレンスがあることで、取得できるSNPを増加させられるため、ここで得られたリファレンスを用いて、再度日本全国の集団遺伝構造およびF1雑種のクローン多様性の解析を行う予定である。また、新規に発見したF1雑種集団に関して、野外調査を行い、この集団も加えてクローン多様性の解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1つ目として、昨年度に全ゲノムシークエンスを行うことができず、また、コロナウイルスの影響でフィールドワークできていないため、2つ目として、RAD-Seqのシークエンスが想定より少ない金額で行うことができたため、残額が生じた。これらの残額は、全ゲノムシークエンスやフィールドワーク、および新規に発見したF1集団のRAD-Seqに充てる予定である。
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