チガヤは根茎による栄養繁殖を行う多年草である。チガヤには生育地や開花期が異なるC型およびE型のほかに、これらのF1が生育している。野外ではF1が蔓延する集団がある一方で、C型やE型と比べてF1は結実率が低い。チガヤが自家不和合であり、F1でも異なるクローンで人為交配をすると高い結実率を示すので、野外ではF1は無性生殖が卓越し、クローン多様性が2生態型よりも低いと予想される。 2022年度は、チガヤ2生態型のゲノムリファレンスの整備を目指して、2生態型のゲノムの塩基配列を取得した。これらのデータを用いて、ゲノムリファレンスの作成を行っている。今後も、これらのデータを利用可能な状態になるまで整備を続けていく。2021年度に引き続いて、RAD-Seqデータの解析に最適なパラメータ設定を模索した。当初の予定ではリファレンス配列を用いることを想定していたが、リファレンスがない状態でも集団構造解析に耐えうる数の遺伝的変異を取得できた。解析の結果、E型ではC型よりも小さなスケールでの集団間の遺伝的分化が大きく、C型には奄美大島以北/以南の遺伝的分化が認められた。これは2生態型が全く異なる集団分化の歴史を有していることを示唆している。また、F1は集団によって異なるクローンが存在していた。この結果から、F1は各集団で独立に生じてきたと考えられる。2生態型とF1のクローン多様性もRAD-Seqによって明らかにした。その結果、F1雑種はC型およびE型と比べ、クローン多様性が低い傾向にあることが明らかになった。2生態型はクローン多様性が高いほど結実率が高くなるという予想通りの結果が得られたが、チガヤは結実率のばらつきが大きく、結実率を規定する要因の探索は今後も行っていく必要がある。以上の結果は、2生態型およびF1が異なる遺伝的分化の歴史を有し、緑化などの利用の上ではこれらの考慮が必要と考えられる。
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